どうしてこうなった。と何回何十回と思っただろう。まあ、おかあさんが再婚するっていう流れから今現在、どうしてこうなったと心中にて思うのは癖みたいなものになってしまった気がする。

「変な人を家に入れちゃダメよ」
「うん」
「勧誘もちゃんと断ってね」
「わかった」
「戸締まりはちゃんとするのよ」
「大丈夫だって。今までもちゃんとやってたからさ」
「それもそうね」

おかあさんが不安そうに心配するも、もともと家のことはひとりでやってきた。なんせおかあさんは生きる為、私を養う為に女手ひとつで働かなきゃいけない。だからこそ世間で鍵っ子と呼ばれる部類に私はいたんだ。よってその辺は心配されなくても要領は掴めてる。これからはちょっとした延長戦みたいなもんだ。


「お留守番宜しくねなまえ、三郎くん。なまえのことお願いね」
「家は任せたよなまえちゃん、三郎」
「父さん母さんも気をつけて。なまえの面倒はちゃんとみとくよ」
「え?…私そんなに信用ないの。おかあさん、と…ええっと…さ、三郎のパパさん、行ってらっしゃい。お仕事頑張ってね」
「そこは素直にお父さんって呼んでやれよ」

自分でもアホだと思うほどの遠回し加減に喝を入れたのは鉢屋三郎で。バシッと軽く背中を叩かれた。…うん、これは私が悪い。

「…その気持ちはあるんだけどね、声に出そうとするけど出ないっていうか」

なんともまあ回りくどい言い訳。…自分でもわかってるんだけどあと一歩の勇気っていうのが不足してる。


「いいのよ慣れないんだもの。ゆっくりでいいわ」
「そうさ。私も急にとは言わないよ、なまえちゃんが慣れるまで待つから」
「……、…」

どうしよう。その言葉だけで心があったかくなる。
私はこんな優しい人を悲しませていいのだろうか。いやいいわけないよ。おかあさんが認めた人なんだ。私がおかあさんを信用できなくてどうする。おとうさんを受け入れなかったら悲しむのは誰なんて決まってる。か、簡単だな、わたしって!

「だっ大丈夫!おお、お、おとうさん頑張ってね!!」
「っ!ああ!行ってくるよなまえちゃん!」

一瞬目を丸くさせたあと、新しいおとうさんは優しく微笑んだ。嬉しそうに私の名前を呼んでギュッと私の体を包み込んだ。…っ。お、おかあさんや友人とはまた違ったあたたかさ。頭上からは「いやでもパパも捨て難いなぁ」なんて言葉も聞こえてどう反応すればいいか困った。正直、困った。

「あらやだあなた、ちょっと大袈裟すぎない?」
「もう私の娘なんだからいいだろう?でも大丈夫、私はおかあさん一筋だからね」

それを証明するかのように次は母にギュッと抱き着くおとうさん。それをポカンとみるのは私、…と鉢屋三郎。なんだろう、こうも親のラブラブっぷりを見せ付けられると視線に困るし居場所にも困る。寧ろあまり見たくない部類と言ってもいい気がする。
これが噂のバカップルってやつなのか。見境もなくておそろしいわあ。……そんな余計なことを考えてれば隣にいた鉢屋三郎から小さな声で私を呼んでいたのに気づき視線を向けた。

「大丈夫か?」
「え?」
「なんか顔強張ってたけど」
「…そう、かな?まあ、ビックリしたからだねそれ」

そりゃあいきなり抱き着かれるとは思わないし。なんて笑えば鉢屋三郎はじとっとした表情でこちらを見た。…恥じらう私の姿が不満かオイ。そんな視線を受け流してもう一度、おかあさんに抱き着いてるおとうさんをみた。とてもうれしそうだった。
あんなに喜んでもらえた。やっぱりちゃんと呼べてよかったと思う。

「ねえ鉢屋三郎」
「だからフルネームで呼ぶなって」
「お、…おとうさん、いい人だね」
「まあな。惚れるなよ」
「惚れるか」

ククッと笑われたのがしゃくに触ったので反論してみせれば「あらあら仲良しねー」なんておかあさんに言われたけれど心外だと思う。




家を出る二人を見送りパタリと閉じたドア。途端に静かになった我が家は鉢屋三郎と私の二人。

「なんか俺の扱い荒くなったよな」
「まあ、さ、さぶろーだからね」
「…猫かぶりめ」
「お互い似たようなもんでしょ」
「違いないな」

鉢屋三郎に対する扱いが荒くなったんじゃない。接し方がなんとなくわかっただけ。それと、ね。恐らくだけど悪い人じゃないってわかったから私は私なりに彼と、そしておとうさんと接しようと思う。
だって実は意味もなく警戒していました、みたいな…そんなことは面を向かって言う必要もないしむしろ言えないからこれでいいんだ。



「なあ、今年は一緒のクラスになれればいいな」
「…。なれるわけないよ。もう世間体では家族っていう扱いになるんでしょう?」
「さて、それはどうかねぇ」

食事会も新居に移ることも、この会話もぜんぶ新学期が始まる前の春休みにおきたこと。この春、私と鉢屋三郎は高校二年生になる。



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