「広いっすねー」
「ねー」
正直に感想を言うとそれに便乗するようになまえ姉ちゃんが相槌を打った。それもそのはずで何個もの部屋がある家なんてお互いに夢の話だね〜なんて冗談げに笑っていたのが数ヶ月前のことだ。それが現実になったなんて想像もしてなかった。しかも鉢屋先輩が姉ちゃんの家族になるなんて…。人生何が起こるか分からないもんだなぁ。
「誘っておいてなんだけど大した料理じゃないからね」
「俺姉ちゃんの味付け好きっすよ」
「ならよかった」
笑った姉ちゃんは相変わらずみたいだ。まあ、でも、
「なんか…姉ちゃん元気そうでよかった」
いつかは起こるだろうと思っていた。母親の結婚だなんて、姉ちゃんが耐えれるのか不安だった。姉ちゃん自身は否定してるけどあれでもマザコンだからね。
でも姉ちゃんは優しいから。優しいから自分より母親の幸せを考えたんだろう。そういう人だもんな。
「私順応いいからねぇ〜」
「さあ、それはどうっすかね」
笑ってそらして、姉ちゃんが用意してくれた料理を食べる。久々だこの味。
「ところで鉢屋先輩の家は金持ちなんすか?」
「…どこかの誰かさんと同じこと聞くなぁ」
「だって広かったんですもん」
「父さんがそれなりの企業に勤めてから、給料もそれなりだろうな」
「出張は左遷…ではないですよね」
「ああ違うぞ。東北で大きなプロジェクトがあるからそれが終わるまでの一時的だ」
誰かさんとは姉ちゃんのことで間違いないだろう。反応が変わりないようで安心した。
それにしても長期の出張もあるだなんて凄いな鉢屋先輩の父親は。それについて行く姉ちゃんの母親も凄いとも思う。聞いたかぎり両親は四人で暮らしてすぐ家を外して、この家で姉ちゃんと鉢屋先輩の二人で暮らしているとか。いろいろと危ないだろと思った。でも姉ちゃん曰く「なんか大丈夫そう」鉢屋先輩曰く「なんとかなる」………姉ちゃんは知ってたけど鉢屋先輩もまた楽天的だった。
初めは聞いて本当に驚いたけど二人を観察してみても、確かに普通だった。それに二人が納得しているしこの状況に問題はないんだろう。間違いない。この二つの家族は変なところが似てる気がする…。
「へー」
「へえ」
問題はないけど、姉ちゃんも今知ったと言わんばかりに俺の質問した話を聞く。……あれ。というか
「姉ちゃん鉢屋先輩からそういうの聞いてないの?」
俺の質問にきょとんと顔を傾げ、少し間を開けてから「うん。詳しくは…」と言った。普通、何か知ろうとしないか?会話のきっかけというかそういうものでお互いの親のことを知ったりとか。
「鉢屋先輩は知ってます?なまえ姉ちゃんの母親のこと」
「いや…、特には」
「「「………」」」
どうやら互いに詮索はしてないとみた。
……まったく姉ちゃんは世話のかかる人だ。それに鉢屋先輩も。仕方ない。一賎になりもしない、こんなことを俺がする必要はないけど姉ちゃんのため。お互いに踏み入れようとしない話を俺が聞いておこうか。
*
「鉢屋先輩」
途中姉ちゃんが席を外して鉢屋先輩と二人になったから先輩を呼んだ。俺は姉ちゃんの弟としていわなきゃいけないことがある。
「どうしたきり丸」
「…鉢屋先輩でも許しませんからね」
「は?」
「なまえ姉ちゃんを悲しませたら、俺、許しません」
鉢屋先輩がいい人だと分かっていてもちゃんと伝えるんだ。俺は俺の幸せを願う姉ちゃんみたいに、姉ちゃんの幸せを誰よりも願っているから。だから先輩に釘を打つのはしかたないだろう?
「手厳しいなきり丸は」
「もちろんっすよ」
困ったように笑う先輩は俺の頭をわしわし撫でた。あまりに乱暴でやめてくださいと口に出す直前目が合った先輩が笑う。信じよう。先輩のことを。
「なまえを悲しませたりしないよ。きり丸に約束しよう」
でもなんだか悔しいから。鉢屋先輩に姉ちゃんをとられたみたいに感じるこの気持ちは隠しておこう。
「ところで先輩はファザコンですか?」
「………」