「あ!」
「あ」

それは偶然の出会い……ではなく。バイトが終わり外で待ってくれていた鉢屋三郎と帰路に着く為歩こうとしていたときのことだった。彼は電灯に照らされたそこにいる。肩を大きく揺らして少し咳込むその姿に慌てて近くまで駆け寄った。

「きり丸?なんでここに…」
「っねえちゃん!探し、たんスけど…っ!」



「ねえちゃん?」

鉢屋三郎がどこか抜けた声で復唱したのが微かにわかった。だけど私にはそんな声に反応することも出来ずにきり丸を見た。息を切らせてることにばかり気をとられていたから気づかなかった。きり丸さん怒ってる。超怒ってらっしゃる。

「なまえねえちゃん!なんで、!俺、ビックリして…!」

正直、しまったと頭を抱えたくなった。だってきり丸が焦る理由は今、やっとわかった。言い訳にしか過ぎないけど春休みからの環境の変化とか慌ただしさとか色々とあったからすっかり忘れてた。これは私が悪い。

「ご、ごめんねきり丸。タイミング的に伝えらず仕舞いでね。よくわからないうちに色々あってさぁ……っ、ぐは!」

タックルをするかの如く私に飛びつくきり丸をしっかりと受け止めた。人目も憚らずぎゅうぎゅうと腰に手を回すきり丸に私も応え頭を撫でる。
この反応はアレだ。きっとここに来る前に前に私が住んでたアパートに行ったんだろうと推測する。息を切らせていたのは私の姿を早く確認したかったんだろうか。このコンビニのバイトは春休みが始まる前にしていた場所だったから、それを知ってるきり丸は勘で来たのかもしれない。

「……」
「大丈夫、どこにもいかないよ」

息を大きく吸えば懐かしいきり丸の香り。少し見なかった間にまた成長した感じがする。私が高校二年生だときり丸は中学一年生だし、これから成長真っ盛りだからどんどん大きくなるんだろうね。そう思うとなんだか私って近所のおばさんみたいだ。



「なまえ、きり丸説明しろ」

ぽんぽんと彼の背中を叩いていたとき、不満げな声で私達を呼んだ鉢屋三郎。うわああ!すっかり忘れておりました!
そんななか、きり丸はきり丸今気づいたと言わんばかりに驚きの声を上げた。

「え?は、鉢屋先輩っ!!?」
「え?二人とも知り合いなの?」

「「「………」」」


どうやらきり丸と鉢屋三郎は先輩後輩の見知った仲らしい。高校から編入した私とは違って二人は小中と大川学園に通ってた生徒。図書委員会の不破くんの後輩でもあるきり丸とはよく話す間柄と鉢屋三郎は言った。ちなみに大川学園の図書室はバカでかいよ学生合同で使ってるからね。
そして私ときり丸はといえば、

「なんていうか…貧乏繋がり?」
「そうっすね」

表現するならこの言葉だと思う。自分で言いながら凄くしっくりきた。




「きり丸、さっきねえちゃんと言ってたが、なまえときり丸は兄弟なのか?」
「そうっす!」
「あはは。血は繋がってないけどね、私は弟って思ってるんだ」

小さい頃から危なっかしいきり丸を見てきた。お互いに助けあってきた。大切な子だ。きり丸の頭を撫でれば私を見上げて照れ臭くも笑った。


「で?ねえちゃんは今どこに住んでんの?家賃払えなくてまた追い出されたとか?」
「そ、それがさぁ…」

またって…そんな。
確かに前、そこの家賃払えなくて別のアパートに引っ越したことあったけども。でも追い出されたわけじゃないから語弊があるねそれ。
隠しても仕方ないし一度鉢屋三郎と顔を見合わせ、きり丸にかくかくじかじかと事の内容を説明することにした。




「ええ!?じゃあ鉢屋先輩となまえねえちゃんは…兄弟ってこと?」
「うん。そうなるね」
「……そう、っすか…」

きり丸は目を丸くさせ驚いたあと、悲しげに目を伏せる。嗚呼きり丸にはそんな顔させたくないのになぁ。ぽんぽんと頭を叩きこちらを向くよう促せば寂しいと言わんばかりの表情があった。

「大丈夫。きり丸は私の弟だよ」
「…っ」

今までもこの先も。
彼をあやすように優しく言った。私の前でころころと表情の変わるきり丸はなんて可愛いことか!


「きり丸さえ大丈夫なら夕飯食いに来るか?なあなまえ」
「あ、それいいね。三人で食べようよきり丸!」
「…で、でも迷惑とかじゃないっすか?」
「今更何遠慮してるの。きり丸の好きなタダだよ?タダ!」
「タ、タダ!?じゃあ遠慮なく!!」

そういってニカッと笑ったきり丸に私も嬉しくなった。



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