あれを簡単に表現するとしたら、そわそわ。そうだ。そわそわしてた。三郎にしては珍しく時間を気にしていて一体どうしたんだと聞いても「別に」としか返ってこない。だけどそれじゃあ余計気になるだろ。


「ハチぃー、なんか三郎落ち着きがない気がしない?」

どうやらそのようすに気づいてるのは俺だけじゃないらしい。
練習の間に勘右衛門が三郎を指差し聞いてきた。ああ確かにそうともいう。あれは落ち着きがないって表現してもよさそうだよな。

「まるでハチみたい」
「そう、まるで俺みたい……ってどさくさに紛れて何言ってんだ!」
「あは!冗談だよ、冗談!」

ったく冗談にしては酷いだろ。ケラケラ笑う勘右衛門は掴み所がない。


思いっきり話がそれてる中、三郎の放ったボールが弧を描きリングに触れることなく綺麗にシュートが決まる。ちくしょー。あんなにそわそわしてるのにそれでも確実にシュートが入るのはズルい。本当にズルい。

俺だってそれなりに入るんだからな。そう意気込んでボールを放り込む、


ガコッ、やっべ!外したたんだけど!

「竹谷ァ!そのシュートを外してどうする!弛んでる証拠だ!外周十周してこい!!」
「え、えええええ!!!」

嘘だろ!見られてた!
とっとと走って来い、とギンギンなオーラを出す潮江先輩に顔が引き攣った。それから笑いを堪えてる三郎や勘の顔に奴らを呪いたくなった。そんなこんなで少し立ち止まっていたら突然、肩を掴ま…捕まれた。

「竹谷奇遇だな!俺も走って来いと言われたんだ!どちらが早く終わるか競争しよう!」
「え!!?なな七松先輩ィイ!?外周って競争するようなもんじゃないっすけど…!」
「つべこべ言うな!ほら行くぞ!なはは!!」
「か、勘弁してくださ…ぎゃああ」

さ、最悪だあ〜…!!
なんか部員みんなが合掌してんだけど!さっきまでニヤニヤしてた三郎も勘右衛門も青ざめてる。兵助は可哀相な目で俺を見るな助けてくれ!っていうか暴君と名高い七松先輩を止められる中在家先輩がいないのは完全に終わった!俺終わった!呪うとか馬鹿なこと考えてないでさっさと行けばよかった!




*


「ハチお疲れ〜」
「七松先輩こわい…最後の最後で先輩との外周は辛い…」
「ほんと運が悪かったね」

やっと走り終え床に倒れた俺にドリンクを差し出してくれる雷蔵の優しさ。有り難く受けとって喉に流していると三郎も来た。

「ハチお疲れ。どうだった七松先輩との外周は?」
「…なんでだろう。三郎に言われると優しさのカケラがない」
「なんだと」

ニヤニヤと笑う三郎の顔。似てる顔なのにうまれた感情がこうも違うとは。


外周十周が終わるとほぼ同時に練習も終わった。今日の部活もまたかなりの練習量だ。それに暑い。体育館だから余計じめじめして暑くてしかたない。こんな時期からこれとか夏が怖いぞ俺は。夏なんて来てほしくない。夏休みは欲しいけど。




部室に戻って汗を拭ってると三郎がケータイを持って部室から出ていく。戻ってきたと思えば「俺先帰るわ」とか。
いつも駄弁るのが当たり前だったのにせっせと着替え始めた。

「早いな」
「ちょっとな」

兵助も不思議そうに三郎を見つめつつ、田楽豆腐をつまむ。おほーさすが豆腐小僧。

「僕達も急ごうか?」
「いや、寄るとこがあるんだ。雷蔵達はゆっくりしてくれてて構わないよ」

そういって手早く身支度をし終えるとカバンを背負い笑う。

「じゃあまた明日な」
「おーまたな」
「明日は帰ろうねー」

そこからも速かった。三郎が部室から出たあと、こっそり覗いてるとずっと駆け足であっという間にいなくなった。マジ急いでるんだなぁ。



「もしかしてさ彼女が待ってたりして」

一緒に覗いてた勘右衛門が含み笑いをして憶測を立てる。
いやいやいや。俺達と絡むのが好きな三郎がんなわけねーって!いやでも可能性としたら高いぞ。三郎は無駄に女受けがいいからな。……あれ?そういや三郎って今までカノジョ作ったことなかったような。なんて勿体ない!イケメンの無駄遣いだろマジで!


「俺もカノジョほしー…」

女運わけてくれ。そう小さく呟いた俺に向かって勘右衛門が大笑いしたのはどういう意味だコラ。



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