「ねえなまえ、今日遊びに行かない?」
ある日の帰り支度をしてたときのこと、友人のリア充が誘ってきた。行きたいところがあると彼女が言った場所は私も行きたかったところでもある。前に一緒に行こう、と話していたのを覚えていてくれたらしい。そりゃあ勿論行きたい。行きたい、けど。
「ごめん今日バイトある」
残念なことにもうシフトを入れてしまいました。
するとうわあ…という目を向けられた。これはひどい。いくら私でも傷つくよ。
「でたよ金の亡者」
「失敬な」
亡者ではないよ。私にどんなイメージを持っているんだキミは。
「春休み前に辞めたみたいだからもうないと思ってたのに」
「うん。再開してみた」
へへっと笑っていれば背後から何か、おかしな気配がした。なんとも言い表せないそれに鳥肌が立ち思わず振り返った。本当は振り返りたくなかったし気づきたくもなかった。でも回避なんてできるわけない。絶対ムリ。
「バイトしてんの?聞いてないんだけど」
「わ、私も言ってない…か…なぁ…」
ああマズイ。鉢屋三郎には言っておくべきだったかもしれない。彼には事後報告だけどバイトはじめてみましたと言ってみたものの、反応がない。
鉢屋三郎が帰ってくるときには私はもう家にいるから気づかないのも当然。だからいいかなって思ってしまったわけで。……あ。なんか鉢屋三郎さんものすっっごく不機嫌なようすなんだけど。言わなかったことそんなによくなかったんですか。
そんな浮気現場を突き止めたようなことはやめていただきたい。みんな、みんながみてます!不思議そうにみてますから!
「あ!そういや思い出した!みょうじって一年のときバイトばっかやってたよな」
「へえ。そうなの?みょうじさん」
「…い、や?…そうでもないよ」
やんわりと否定をするけども、なんの前触れもなく竹谷がペラペラと語る。
掛け持ちは普通。友達と遊ぶよりアルバイト。バイトを優先して補習をよく受ける。そしてその逆も然別、テスト前の補習は長いからと勉強に勤しんだり等。それらを巧妙に使い分け時間を錬成する根っからのアルバイターだと。トドメには「そんな噂で持ち切りだったぜ!」
……うわあああ。何を言い出すかと思えばやめてくださいと真顔で諭したくなる内容ばかり。
「う、嘘が…嘘が混じってる…それがすべて本当じゃないよ…」
私にそんな計画を立てられるわけないじゃないか。上手く噛み合ってそんな話になってしまったに違いない。噂ってコワイ。私の知らないところでいろいろと誤解を招いているんだけど。そんな才能あったら私今頃いい成績取ってるよ!勉強で苦労だってしません。
ぽん、と軽く頭を叩かれた。見上げれば一つため息を漏らしながらも笑う友人。
「もうほんとに相変わらずなんだから。バイトない日教えてよ、頑張ってるあんたの為に奢ってあげるからさ」
「マ、マジで!?ありがと!」
「120円までだけどね」
「思いっきりジュース代だね!」
しかも缶ジュース!
わかってたよ。
わかってたけど、それでも嬉しいよ!有り難いよ!
「じゃあ途中まで一緒に帰ろ。それならいいでしょ」
「うん!」
そんな私を、鉢屋三郎が不満げに見続けていたなんて知らない。不破くんが不思議そうに見ていたことも知らない。