高校三年生となると義務教育のラストだ。きっと勉強とか進路だとかいろいろな部分で大変なんだろう。部活だって学校行事だって仕切らなくてはならないし、やりたいことはたくさんあるはずだ。でもいくらなんでもそんなに頑張ることじゃあないだろうと思う。まずは自分の為に頑張ればいいのに。この人を見るとなんだか最上級生とはなんたるかを改めさせられる。いつも凄い隈だと思っていた。いや今も思っている。見かけ怖そう、だけど、きっと生徒会委員長として後輩想いの素敵な先輩なんだろうね。見かけ怖いけど。しかしこんな隈を作ってるくらいだ。友達との遊びは二の次なんじゃなかろうか。……。

「…私が持て余す時間を全力で差し上げたい」
「はあ?」

思わず漏れた言葉に隣から声がかかる。やばい思わず口に出てたらしい。
なんでもないこっちの話と告げれば隣の席にすわる鉢屋三郎から「人の話はしっかり聞いとけよ」と小声で指摘された。



「――…以上だ。もし何か分からないことがあれば質問してくれ」

なんてことだ。教卓に手を起き語っていた先輩が終わりの合図を告げる。私が余計なことを考えていたばかりに話し合いが終わっていたとは思いもしなかった。
今日の放課後生徒会議室に集まるようにと生徒会役員からの召集があり、今年の年間行事の簡単な説明があった。
その中で主に二つが大事な要項があり、一学期に行われる体育祭の説明と二学期の学園祭について学級委員が成すべきことの説明があった。まあ体育祭は体育委員会が主に行う為サポートをする程度らしいので問題ないだろう。逆に大変なのは学園祭。この大川学園では大川祭という名前で盛り上がってるメインイベントだ。クラスの模擬店は何をやるか、どんなものが可能か、食べ物を出店する場合衛生的に申請が必要だとかガスコンロは何台までとか。その部分に関しての詳しい話を聞きそびれてしまったから事前に配られた紙面か鉢屋三郎に聞かなきゃならない。……残念だけどやっぱり私にこういう配役は向いてないと思う。ろくに話聞いてないしみんなに伝達できないんだけど。クラスメイトよ、ごめん。



生徒会委員長が解散と言えば疎らに散っていく。少しがやがやする生徒会室。鉢屋三郎の前に座っていた二年一組の尾浜くんがこちらを振り返る。そうそう。尾浜くんも学級委員らしい。私と目が合うなり宜しくね、とにこやかに笑った尾浜くんはいい人。会議が始まる前、消しゴムを落としたときに拾ってくれた。ほんとうにいい人。

「三郎部活行こう!」
「おー」

尾浜くんに呼ばれて気怠い声で応える鉢屋三郎。机に広げた紙を鞄に仕舞った。

「んじゃ俺これから部活だから」
「わかった。私はお先に」

頑張れ青春という言葉は喉に留めておいた。尾浜くんからはバイバイと手を振られたので同じように手を振った。
二人はそのまま教室を出ていくかと思いきや尾浜くんの後ろを着いて行ってた鉢屋三郎がこちらを振り向き笑う。

「なんか今日チャーハンの気分」
「か、辛い気分でもある」

そんなことを今言われるとは思わなかった。私の脳みその回転は鉢屋三郎ほど速くはないが、今回は素晴らしい切り返しだと思う。どうやら今日の夕飯はチャーハン希望らしい。突然のチャーハン要求にピリ辛風味でどうだと言わんばかりに私が主張してみたのだ。たまにあるんだよねこういうの。だから少し切り返しができるくらい慣れたわけですよ。こんな会話、みんなに意味がバレやしないかと私だけがハラハラしてるのも余談として付け加えておく。鉢屋三郎は至極楽しそうに頼んだ、と口パクで伝えてきた。よし今日はピリ辛チャーハンで決まりです。

「三郎ー追いてくよー」
「今行くよ」

尾浜くんの催促が聞こえて今度こそ彼の後ろを着いていく。それを見届けて自分の机の上に置きっぱなしの紙を片付けた。さてさて私も帰ろう。


「先輩!潮江先輩!」

そんな私の耳に入ってきた声。…いやむしろ潮江先輩という名前に反応したといっても間違いないと思う。黒板の前で一人の男の子が生徒会委員長を呼べば、どうした左門と男の子に応えた。…な、んという身長差なのだろうか。確かこの子、中等部の子だったかな。この子の他にも高等部主催の学園祭の段取りを理解する為に中学生が数人参加してる。さすが大川学園だ。
左門くんは黒板消しを片手に、悪戦苦闘しているようす。

「大変です!上が届きません!助けて下さい!」
「ああああ!わかったから!黒板消しを叩くな!粉が舞うだろう!」

パンパンパンとひっきりなしにたたき付ける黒板消しから溢れる白い粉。それを見兼ねて潮江先輩が彼の代わりに届かなかった上の部分を消す。それを見つめぱっと笑顔を綻ばせた左門くんはとても可愛かった。


「潮江先輩!」
「団蔵、どうかしたか?」
「大変です!なぜか書いた議事録が読めません!」
「お前の字が汚いからだバカタレ!」

真剣な表情でノートを潮江先輩見せれば、そのノートを奪い団蔵と呼ばれた男の子の頭をバスンと一撃。
ため息ひとつ、頭を抱えもう消してしまったぞと呟いた。そんな潮江先輩にすみませんと謝る団蔵くんに先輩は彼の頭を撫でた。そのときの団蔵くんの嬉しそうな顔といったら!

「潮江先輩、安心してください。黒板に書いたものは私のノートに書き記したので問題ありませんよ」
「僕もとりました!潮江先輩是非参考にしてください」
「ああ三木ヱ門、左吉。悪いな助かった」
「この私にかかれば問題ありませんよ。こうなることは想定の範囲です」
「同じく!中等部一年一組の僕は字も優秀ですからね!」

……な、なんだこれは。この結束力は!
よくわからないけど仲が良いんだろうなぁ。それを纏める潮江先輩。この人はなんて後輩に熱い人なんだろうか。私の予想は間違いじゃなかった!
思わず一連の流れを微笑ましく見ていたわけだけど、これ以上この場にいるのはそぐわない気がする。はやく家帰ってチャーハンつくろ




◎余談:
会計委員会→生徒会
学級委員→学級委員(生徒会の企画運営に強制参加する的な)



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