先にお風呂を頂戴して鉢屋三郎に次いいよと告げたあとリビングでまったりする夜の9時頃。しんと静まるリビングを見渡せば無駄に広くて少し、ほんの少しだけ寂しくなる。そんななかリモコンでテレビの電源を入れれば途端に笑い声を流してくれる、その音に意識を向けて渾身のギャグをかっ飛ばす若手芸人に対して笑った。

そうしてるうちに鉢屋三郎がお風呂から上がったらしく「あちー」と呟きながらリビングへやってきてふと思い出したように私を呼んだ。

「なーアイスでも食うか?」
「え、あるの?」
「今日買ってき……って、髪の毛乾かしてないのか」
「あ、忘れてた」

私の前にきた鉢屋三郎は指摘する。言われてタオルを頭にかけてそのままだったことに気づいた。そんな私のださしなさ故か彼からアホめという言葉を頂く。悔しいけど反論ができない!鉢屋三郎は濡れた私の髪をタオルごとわしわしとふいたあとなぜか脱衣所へと向かって行った。忘れものでもしたのかな、なんて憶測を立てていたが戻ってきた鉢屋三郎の手にはなんとドライヤーが握られている。ま、さか

「風邪引く前に乾かすぞ」
「か、乾かしてくれんの?」
「まあな」

おう………冗談で聞いてみたんだけど。どうやら私の髪を乾かしてくれる、らしい。コンセントにセンを差し込み、此処に座れと促した。拒否をするにも万全な準備をしてる鉢屋三郎をみると何だか言いにくくて大人しく従った。ブオオと音を立て熱風が髪にかかる。「熱くないか?」と確認をとって熱さを感じさせないよう意識してくれてるらしい。ほんと有り難い。

髪を乾かしてくれるなんてこと、本当に小さな頃におかあさんがしてくれたような…みたいな曖昧な記憶しかない。まさか、鉢屋三郎にやってもらうとは世の中まったくわからないものである。


バラエティー番組はいつの間にか終わっていて、画面に映るのは今日のニュース。どこで事件が起きただとか、こんなイベントがあっただとか、今年の夏に向けた節電特集だとか。為になるのだったり聞き飽きた状況だったり。
そうか節電かあ…。そんな私の考えていた事柄と同じく鉢屋三郎もまたそれに目を留めていたようだ。

「できる範囲で節電しないとな」
「こまめに電気を消すとか?それと電球とかは拭くと明るくなるんだってね」
「へえーじゃあ拭いとくか。ま、夏はやっぱクーラーの設定温度を28度にするとかも基本だろ。28とか絶対無理だけど」
「そうなの?私クーラー使った生活したことないからわかんないや」
「………え」
「……え?」
「…マジで?」
「うん、去年も扇風機で乗り切ったよ」

当たり前のことを当たり前に言えばギョッとした目をこちらへ向けてきた。…やばい。これは普通じゃないっていう反応だよね!

「さ、流石に今年も乗り切ろうとか思ってないよ!」
「当たり前だ。俺が死ぬ」
「大袈裟だよそれ」

髪を乾かす作業が終わったらしく、ドライヤーを片付ける鉢屋三郎。ありがとうと声をかけると彼は笑いながら洗面所へ、そしてキッチンへ。何をするのかと思えばアイスとスプーンをふたつずつ持ってきた。すっかりアイスのこと忘れてた!


「節電といえば、だ」

アイスのひとつを私の目の前に。それを有り難く受け取り頂くことにする。鉢屋三郎の言葉を横で聞きつつ、口のなかにバニラ味のそれを放り込んだ。嗚呼アイスは本当に美味しいね。

「リビングで過ごすようにすれば節電もできるし、節約にももってこいだな」
「なるほ、ど…?」

ん?それはつまりお互い部屋にいるよりリビングひとつ居ればいいということか。確かに良い案ではあるけれど、一緒に居る時間が多くなるわけだね。うん。本当にその提案が自分達にとって、いやむしろ鉢屋三郎にとってそれが良いのか些か疑問だけど。

「あ、今度はなまえが乾かしてくれよ」
「えー」
「そーいうのはギブアンドテイクだろ」

でもひとりでいるよりはいいのかな。こうして誰かと会話することは嫌いじゃないからね。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -