鉢屋三郎はきっとバスケ部で一生懸命頑張っているであろう。青春を謳歌している間に私はもう夕飯の下準備は済んでるし風呂も沸かした。あとは鉢屋三郎が帰ってくるのを待つだけ。バラエティ番組を観て爆笑しておくことにする。…くそう爆笑する程でもなくつまらん。そんなとき玄関の鍵が開く音が聞こえてくるので入口まで出向いた。ガチャと開いた先には疲れきった表情を浮かべている鉢屋三郎。随分としごかれたのかな、と可哀相な目を向けてやることしかできない。

「ただい、ま…」
「おかえりー。すぐご飯できるよ」
「…おう悪ぃ」
「あ、お風呂も沸いてるからそっち先の方がいいかな?」

主婦だ。私ってば立派に主婦業をこなしてるよ…!そんなことをしみじみ感じつつリビングに向かっていると、鉢屋三郎から視線を投げかけられてるのに気づいた。

「な…何、」
「さっきの続き、それともわ・た・し?ってのが抜けて…」

ゴッ

「そう余計なことは言わんで宜しい」
「…い、痛ぇ、冗談だよ。先に風呂入る」

汗臭いだろ?と自分の体の臭いをすんすんと嗅ぐ。…そ…その仕草妙に色っぽい、っていう一瞬の気の迷いは頭の隅に追いやっておく。私はあまり気にしていなかったけど臭いについて鉢屋三郎は意識してくれていたらしい。思わず彼の頭にチョップを噛ましてしまったことを反省しておこう。ごめん。


「あ、さ、三郎!」
「なに?」

風呂場へ向かおうとする鉢屋三郎を呼び止めた。カバンを指差し忘れそうだったことを先に言っておく。

「弁当箱!出して!」
「あ…忘れてた」

弁当の習慣のなかった鉢屋三郎もすっかり弁当箱のことを忘れていたみたい。ごそごそとカバンの中から弁当箱を取り出し私に手渡す。もちろん朝とは違って軽い。袋を開いて中身を確認すればご飯一粒もなく綺麗になった弁当箱。ただそれをみただけで嬉しくなる。

「綺麗に食べたね」
「うん。美味かった」
「…そ、それはよかった」

さらりと言われるとなんだか照れ臭い。

「こういうの毎日食ってるんだな」
「うん、レパートリーないから味気無いけどね。それに案外弁当ってカバンもかさばるから厄介だよねー」

弁当は弁当だけど、殆ど冷凍食品で申し訳ない。チンするだけだから簡単なんだもん。しかたないよね。

「じゃあこれから増やしていこうぜ」
「え?」
「俺カバンかさばっても問題ないし」
「お?」
「あと俺、今日の卵焼きが好きだから毎日欲しい」
「……」

えっと…毎日、ですか?聞き違いじゃなかったら毎日と聞こえた気がする。
それは、あの、鉢屋三郎くん。私の出来の悪い脳が解釈してみせればとんでもないことを言われてるような気がするんですが。幻聴だろうか。
そんな私の思考回路を畳み掛けるように声が重ねられた。

「これからも弁当がいいってこと」
「……まじか」
「うん、まじ。んで、たまに学食にすることにした」

お金が浮くしな、と個人的な事情を鉢屋三郎は清々しく言った。…結局本音はそこかいと心でツッコミを入れてみた。でも、料理で褒められることがこんなにも嬉しいとは思ってもみなかったのはナイショです。



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