「おはよう三郎」
「……」
「…」
「…」
「…挨拶は」
「はよう」

朝、一階に降りてきた鉢屋三郎を見て私はすかさず朝の挨拶をしたわけだけど、私の姿を見て奴はピタリと止まった。こうして朝の挨拶するのも…なんか違和感というか、今までになかったがゆえ、の再び変な感じがする。きっと鉢屋三郎も同じ気持ちで固まったんだと思う。
返事を返した鉢屋三郎はけだるそうにイスに腰をおろし欠伸をする。ああもしかしたら彼は低血圧なのかな。そんなどうでもいいことを考えていた。

「今日は朝起きんの早いんだな」
「まあね」

なんだか今日は優越感を感じるよ。ふふんと意味もなく偉そうに返事をしてみせればウゼェと返された。これはひどい。


「三郎は学食?」
「ああ。いつも食堂で食べたりパンとか買ってる」
「そっかー」

聞いてみてそれもそうかと納得。鉢屋三郎はおとうさんと二人だったんだもん、その可能性の方が高いよなぁ。

「いきなりどうしたんだ?」
「なんでもない。ちょっと聞きたかっただけ」
「じゃあそれなに」
「…」

へへと笑ってみるも、テーブルに並んだ二つの包みを指差し鉢屋三郎は聞いてきた。…うん。そりゃ気づくよね、気づいちゃうよね。
なんでもない、で今の会話を終われたらそれでよかったんだけどなぁ。でもいまさらその包みを隠したりとかもできるわけもなく。

「んと、聞くの忘れてたからついでに作っちゃったんだけど」
「…弁当?」
「正解」

今日から学校は昼を跨ぎ午後まである。そして毎日おかあさんは忙しく仕事してたから、毎朝お弁当を作る習慣が私にはある。今日の朝、私が早いのはこの理由なわけで。いつも通り自分の分を作ってしまえばよかったけど、ふと気になったのが鉢屋三郎はどうするのか?ということだった。一緒に暮らしているわけだし、自分のだけ作るというのもなんだかなーと思ったがゆえの行動。
でも彼には彼の友人との付き合いもあるかもしれないし、無理に弁当を持ってかせるのも申し訳ない。だけど捨てるのは論外だから、いらなかったら私の今日の夕飯にしようと思ってる。そこはぬかりなく。

「いらないならいいんだ。気にしないでね」
「いやいる」
「無理しなくていいよ?友達との都合もあるだろうし」
「無理なんかしてない」
「そう?」
「ん、サンキュ」

「……」
「なにその顔」

疑わしそうに見ていたら鉢屋三郎が更に「変」と付け足した。だってほらこういうときって冷やかしの言葉とかよくあるじゃんね。

「食えんの?とか言われると思った」
「…俺、弁当って持ってったことなかったからさ。なんか変な感じ」
「あ、そっか」

鉢屋三郎にしてみたらこういうのはむず痒いのかな?
こんな風に返されるとは思ってもみなかった私もちょっとむず痒かったり。



「食堂のおばちゃんの料理は美味いんだぜ」
「へー」
「もしかして食ったことない?」
「うん。私は毎日お弁当だし、寝坊とかするとパン買うくらいかな」

学食ばかりでは食費がかさむから毎日弁当を貫いて一年。パンを買うのは食堂が賑わっているから大変そうだという認識。それに先輩もいっぱいいるしなぁ。
でも一度は食堂でおばちゃんのご飯が食べてみたいとは思う。いつか必ず行こうとは決意してる。まだ行動に出てないだけだけど…

「じゃあ今度食いに行こう」

おや?つまりそれは一緒にってことだろうか。そんなこと言わなくても話の流れでわかりきっているのに疑問に思ってれば「一緒にだからな」と念をおされた。
あれ、私の考えてることお見通し?



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