それはまるでイカのような
深夜、大イカに締め付けられて逃げられないという何とも恐ろしい悪夢から解放された。何だよあのイカでかすぎだろ、ああ怖かった。と寝返りをうとうとした時、何か違和感。目を開けて確認してみれば身体が柱にくくりつけられていて身動きが出来ない状態だった。え、なにこれ。しかもここ、どこ?


よし、落ち着け私。落ち着いて状況整理をするんだ。私ならできる。私はやればできる子だ。多分。


かわいいかわいい(何故か懐かれている)一年は組の例の三人組に一緒に町に行かないかと誘われ、そしてうまいこと団子をおごらせられたのが昨日。支払いを済ませた直後、財布の中身を確認したとき、私はもう二度と年下の口車には乗らないと誓った。一年生恐るべし。「俺以外の男とどこかに行くときは絶対俺に一言言ってからにしてね」って恋人の勘ちゃんに言われてはいたけど、まあ、まだ男っていう歳でもないし、と思って報告はしなかったことは今は関係ないか。
その後、疲れた私は風呂に入り、布団を敷き、就寝。そして今に至る。寝ている間に何があった。


ざっと周りを見てみる。とりあえず忍術学園内ではないことは分かる。耳を済ませば虫の声が聞こえてくる。どこかの山中の小屋のようだ。辺りに物は無し。生活感の欠片もない。苦無もその他の道具も全く持ってない上に私の身体を拘束している縄はほどけそうもない。苦無は就寝時に枕元に置きっぱなしにしたままだ。


こんなこと、一体誰が。忍術学園に恨みがある人か城が人質として連れ去ったのか。あるいはドクタケ辺りが忍術のノウハウを得るために拉致ったのか。いずれにせよこの状況はマズい。誰か、誰か助けて。


どうにか脱出できないだろうかと四苦八苦していると小屋の扉が開いた。敵が来たと恐る恐る扉の方を見たらなんと愛しのマイダーリン、勘ちゃんだった。やった、助かった。




「あ、名前。気分はどう?」

「今は勘ちゃんのおかげで気分は最高。お願い、早く助けて」

「痛いところは?」

「特になし。ちょっ、早く助けて」

「ならよかったよ」

「おーい、勘ちゃん。話聞いてる?」




おかしい。勘ちゃんが一向に助ける素振りを見せない。どう考えてもおかしい。だって普通恋人が柱に縛り付けられてたら助けるでしょ。普通は。




「ねえ名前、」

「な、なんでしょう」

「俺以外の男とのデートは楽しかった?」




ご立腹でいらっしゃる!
にっこりと笑いながら一歩一歩ゆっくりとこっちに向かってくる。勘ちゃん、いや、勘右衛門様、とても怖いっす。




「その節はほんとすみません。それは後ほど詳しく弁明させていただくとして、」

「て?」

「早く縄をほどいてください」

「なんで?」

「や、なんでって、早くここから脱出しないと敵が来るかもしれないっていうか」




と、ここまで私が言うと、勘ちゃんはいきなり大笑いし始めた。おい、今の私のセリフのどこに笑いの要素があった。




「やだなぁ名前、誰が名前を閉じこめてると思ってんの?ドクタケとか?」

「え、」

「違う。違うよ名前。名前をここに連れてきて縛って閉じこめたのは俺だよ」




嘘だろ。いや、まさか。わけが分からない。落ち着け、落ち着くんだ私。そうだ、私はやればできる子だ。多分。




「えーっと、無断で出かけたことに関しては本当に申し訳ないと…」

「俺がそんなことで怒る人間に見える?」




見える。すっごく見える。けどここは保身のため頷くのは止めておく。




「俺はね、ただ不公平だなぁって思って。だって俺は一日中、一年中名前のことで頭がいっぱいなのに名前はそうじゃないとかすっごく不公平じゃない?」




だからね、と勘ちゃんは鼻と鼻がくっつきそうになるまで顔を近づけてくる。勘ちゃんの瞳に写る私はそうとう引きつった顔をしていた。




「名前も俺がいないと生きていけないようにしようと思って」




そうとう病んでいらっしゃる。正気じゃない。


頭の中ではいろんな言葉が飛び交ってはいたけれど何一つ声に出しては言えず、ただ呆然とする私を見て、勘ちゃんは少し満足したのか、私の頬に軽く接吻をすると出口の方に向かって歩いていった。




「それじゃあ名前、また明日の夜に」




バタンと扉が閉まる。それと同時に私の中の緊張の糸が切れる。嘘だろ、という私のつぶやきに答えてくれる人はもういない。


これから私はいつまで正常な精神を維持できるのかという絶望的観測をしながらも勘ちゃんを完全に恨みきれない上にある種の愛情にも似た感情が湧いてきたあたり、私はもしかしたらもう健全な精神が壊れ始めてるのかもしれない。







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未定のハトさんから(半ば強奪するかのように)頂いてきましたー!私ハトさんの書かれる病み病み勘ちゃん大好きなんです。たまらんです!
この続きがハトさんのサイトにあるのでぜひみなさんにも読んでいただきたい!

ハトさん本当にありがとうございました。




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