彼にとっては愛なんです
※鉢屋くんが変態です。
※鉢屋くんを殴る話です。








「せんぱああああい!」
「わあああああ!!!」

先輩の堅く握り締められた拳がそれはそれはものすごい速さで彼、鉢屋三郎の顔面を捕らえた。拳が減り込んだ顔面は見事にへこみ(なんかメギョっていってた)、綺麗に三郎は地面にダイブ。鼻血まみれの顔のまま、床と熱い口づけを交わした。
あ、ちなみに実況は僕、不破雷蔵がお送りしています。

「うわああ、鉢屋くん!ごめんね、いきなりだったからつい、いつものくせで!」
「い、いいんですよ…つか、先輩…遠いです…」
「だって近づいたらまた鉢屋くん飛び掛かってくるでしょう!?」

そう、彼女は自分に飛び掛かってくるものに対して衝動的に拳を叩き込んでしまうという戦闘においていいような悪いような、なんともいえない癖がある。
とりあえず今、僕はうっかり三郎と間違われて先輩に殴られないように木の上から実況しています。
最近は少しずつよくなってきているらしいが、なにせ三郎は先輩を見つけると思いっきり先輩に対して走って行ってしまうのだ。そりゃあ殴られるに決まってる。もはや三郎がいると必然的に拳を叩き込んでしまうようになるんじゃないかと僕はハラハラしているのだ。
うん、まあそれもこれも…

「今日の先輩のパンチも素晴らしかったです…。流れるような拳の軌道、容赦のない打ち込み!それがその白魚のような手から私にのみ向かっていると考えるだけで私は…私は…!!」
「鉢屋くん目を覚まして!!!」

どうしようもなく三郎が変態だからなんだけど。

「もう最近私は先輩に殴られるために日々を生きてるといっても過言じゃないですよ!というわけでもう一度どうぞ…!」
「わからない!なにがというわけで、なのか全くわからない!!」

顔を赤く染める(血液込み)三郎に対して先輩はもう顔面蒼白だ。うん、あれは気持ち悪い。

「というか先輩の白い肌に私の赤い血液がべったりと付着してますね…!」
「ひっ、なんでそんな嬉しそうな血塗れの顔でこっちを見るの!?」
「いや、このまま私の血液が先輩の肌から吸収されて先輩の血液と混ざり合わないかなあ…って。ふふっ」
「そこ照れ笑いするとこじゃないよ!?気持ち悪い、鉢屋くん本気で気持ち悪い!言いたくないけど気持ち悪い!」
「そんな蔑んだ瞳の先輩も素敵ですねっ!私、やっぱり我慢できません…好きですせんぱああああい!!」
「きゃあああああ!!?」

ああ、ダメだこいつ。はやくなんとかしないと。そう思った瞬間に飛び掛かった三郎に、再び先輩の鮮やかなパンチが決まったのは、言うまでもないことだった。

***

「先輩」

すっかりあの変装名人(もはや変態名人だが)が動かなくなったころに僕は先輩に話しかける。

「あ、不破くん…何故木の上に…」
「三郎じゃないよというアピールです」
「ご、ご迷惑をおかけしてます…」

未だに顔色の悪い先輩に僕は慌てて首を振る。とんでもない、悪いのは全てどうしようもないこの変態だというのに。

「いつも止められなくてすいません」
「いいのよ。どうしようもないときは助けてくれるでしょう?」
「は、はい、それはもう!」
「…鉢屋くん、悪い人じゃあないんだけどなあ」

そういう先輩に、僕は思わず目頭が熱くなる。あれだけ苦痛を強いられてまだ三郎を嫌わないでくれるなんて天使かこの人。
とりあえず今度、三郎の財布から勝手に持ち出した金で先輩になにかとてもおいしいものを捧げよう。そうでもしなければやってられない。

「な、なんて優しいんだ…っ!」
「ひっ!?」
「……まさか!」

僕が決意を新たにすると、突然の声。
…復活、早すぎないかい。

「そんな貴女がやはり大好きです、せんぱあああああああい!」
「い、いやああああああああ!!」
「鉢屋お前いい加減にしろよおおお!!」

先輩の悲鳴と共にもう何度目かもわからないけれど繰り出される拳。
僕もそろそろ限界だ。懐から取り出したギラリと光る図書カードを三郎に向けて投げるのであった。

誰かこの変態から先輩(と僕)を助けてください。それはもう…切実に!!




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -