06
カーテン越しの眩しい太陽光が私の顔を照らす。昨日はなんだかやけに慌ただしくて疲れたなあ。朝の眠気からぼんやりとしたまま意識を浮上させる。そっと目を開けて私は−−−

「おはよ、市子」
「ぎゃあああああああああ!」

叫んだ。

「どうしたの市子?なんか怖いものでもあった?オレがぜーんぶやっつけてあげるよ!」
「市子は朝から元気なのだ」
「ひいいっ、尾浜さんと久々知さん顔が近いっ!!」

なぜなら目を開けた瞬間に見たものは尾浜さんと久々知さん、妖怪二人のドアップだ。そりゃ叫びたくもなる。
小首を傾げながら聞いてくる尾浜さんと嬉しそうな久々知さん。いやいやだから、なんか怖いものでもあった?じゃないんですよ。むしろあなたがたが怖いですよ。

「なんでみなさん私の部屋にいるんですか!?」
「だって市子のこと護るのはオレ達の役目だぜ」
「うわっ」

突然の声に振り向くと目の前には竹谷さんたち残りの3人。ち、近っ!絶対この妖怪5人は人との距離感を間違えているに違いない。

「だからって朝起きたらいきなり顔がドアップって怖いですから!」
「オレたちは市子のとーっても可愛い寝顔が見られて大満足でーす」
「そうそう」

いや、そんなにこにこした笑顔でそんなこと言わないでくださいね。まじで。

「というか勝手に部屋に入らないでください!もし私が着替えてたらどうするんですか!」
「貧相なんだからべつに見られてもこまらないだろ」

じーっと私のほうを見ながら鉢屋さんがぼそりと一言。は、腹立つ…!

「鉢屋さんは黙ってて!つか貧相って言うな!」
「いやいや市子は着痩せするタイプとみたね。実はなかなかにあるでしょ」
「んなっ、ちょ、勘右衛門っ!?」

尾浜さんは私のなにを知っているのかな!そこまでさらりと言われるといっそ清々しいよ。ああ、ほら竹谷さんが真っ赤になってるじゃないですか!

「いやーもう市子超可愛いのだ」
「久々知さん、真顔でそんなことを言うのをやめてください。照れたらいいのか怯えたらいいのかわかりません!」

久々知さんのぱっちりとした大きい目が私をじいっと見つめる。正直この射抜くような視線は苦手だ。

「照れた市子ちゃんか…。それ、すごく見たいなぁ」
「不破さん、それは無理なので諦めてください」

そんなふんわりした笑顔で言われても、妖怪に迫られてどきどきするとすれば恐怖のどきどきに他ならない。イケメンだけど妖怪ってだけでプラマイゼロだ。だって彼らは気を抜くとすぐ尻尾や耳が生えたり動物になったりするんだもの。(まだ強い妖怪のたまごだからだと言っていたけれど)

「ってああ!もうこんな時間じゃないですか!着替えるからもう全員出ていけ!…いや、出ていってくださいお願いします!」
「おまえいいのかそんな腰低くて…仮にも契約者だろ?」

鉢屋さんに呆れられたけど、いいんです。チキンな私にはいくら契約した妖怪だろうと命令なんて出来ないんです。怖いからね!

「とにかく全員出ていってくださーい!」




***

なんとか支度を終え、着いていくとうるさい5人(5匹?)の妖怪たちを父さんの手に引き渡す。

「じゃあ父さん、よろしく」
「はいはーい。んじゃ今日までは父さんがお前のこと護るからな。でも市子、ちゃんとこの子たちとも仲良くならなきゃだめだぞ」
「うっ」
「大丈夫です、お義父さん!オレたち市子大好きです!」
「だれがお義父さんだ、シバき倒すぞ」
「ぐえっ」

きらきらした笑顔の竹谷さんに父さんの鉄拳がめり込んだ。うちの父さんはひょろっとしてる見た目に反して結構強い退魔師なので腕っ節はかなり強いのだ。あれ痛そうだなあ。ぎゃっ、竹谷さん耳と尻尾出てる!

「まあとりあえず今日は普通に過ごしてくれればいいから。明日は…まあ頑張ってもらうし?」
「疑問形やめて!怖いから!」
「はいはい。ほら、時間やばいよ」
「うわあ!い、いってきまーす!」

父さんに急かされながら家を出る。後ろから「いってらっしゃーい」とか「市子愛してるー!…ぐわっ、仁さん痛っ!」とか賑やかすぎる声を受けて、私はバス停まで走った。


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