05
「護るからって…具体的にはどうするつもりなんですか?」

気になったので近くにいた尾浜さんに聞いてみる。すると尾浜さんはにぱっと嬉しそうに笑った。

「えー、とりあえず市子に近づく奴は片っ端からボコボコにしていくけど」
「…は?」
「市子に近づく奴は基本的に敵ってことでいいかなーっ。みたいな!」
「抽象的すぎる!それはないですやめましょう。どう考えても極論すぎます」

明るい笑顔のくせになんという危ない思考回路してるんだ、尾浜さん。というか周りの4人も笑顔で尾浜さんの意見に賛成するのはやめて!

「市子が喰われるよりましだろ」
「妖怪じゃなくて一般人だったらどうするんですか!…つか鉢屋さんっ、か、顔が近い!」
「ばあ」
「ひぎゃあああああっ!?」

鉢屋さんを押しやろうとすると、さっきまであった筈の顔のパーツが一瞬で消えた。の、のっぺらぼう!?思わず叫ぶと目の前の鉢屋さんはまたぱっと元のきちんと凹凸のある顔に戻る。

「あはははっ!ひぎゃあああああって!なんだその色気の無い悲鳴!あー市子は本当驚かし甲斐があるよ」
「鉢屋さんひどい!ひいいっていうか怖いのであまり近づかないでええ!」

けたけたと笑い声をあげる鉢屋さんから慌てて離れると、次に近くに来たのは久々知さんだった。

「大丈夫?あいつ狐の変化の力高いからのっぺらぼうの仕事も出来るんだよ」
「え、そうだったんですか…。ありがとうございます。でも出来ればあと少し離れていただけるとすごく嬉しいです」

怖いので。そういうと久々知さんはしょんぼりとした顔になる。じわりと若干その目に涙の膜が張られているようにも見える。いや、なんでそこで涙目?

「市子、オレのこと嫌いなの…?」
「うっ」

うるりとした目で見つめられればいくら妖怪とはいえ、久々知さんの今の姿は角も尻尾も鱗もない人(しかもすごい美人)そのものなのだ。正直この状況は良心がものすごく痛む。

「…や、やっぱりもう少し近くても…だ、大丈夫です…。多分…」
「本当か!」
「ぐえっ」

結局心苦しさに勝てずにそう言うと、なぜか久々知さんは私に思いっきり抱き着いてきた。いや、むしろこれはタックルだ。完全に攻撃である。

「市子ちゃん!?」
「バカ!兵助!誰が抱き着いていいなんて言った!」

不破さんと竹谷さんがなんとか久々知さんを引きはがしてくれた。こ、怖かったし恥ずかしかったよ…なんだこの天然さんは…なんで少し近づいていい=抱き着くになるんだ。末恐ろしいな久々知さん。まさかこのためにあの涙目が演技だったなんてオチはないよ…ね…?いや、さすがにそれは被害妄想ってやつだ。どっちにしろ怖いから黙っておくけど!

「なんでオレと市子の仲を引き裂こうとするのだ!」
「引き裂くに決まってんだろ、んな羨ましいこと誰がさせるか!」
「そうだよずるいよ兵助」

あっちから聞いているこっちが恥ずかしくなるような会話が繰り広げられてるけど、ツッコむ勇気は私にはない。聞こえない、なんにも聞こえないよー。

「市子」
「はい!?」

不意に近距離で掛けられた声に振りかえると尾浜さんが立っていた。いやだからさっきから何故いちいち距離が近いの。こっそり距離を置いておく。

「今日はもう結構遅い時間だから、寝たほうがいいよ。明日は入学式の準備で学校行くんでしょ?」
「はい。ってなんで知ってるんですか…」
「机の引き出しにプリントが」
「勝手に人の机漁らないでくださいよ!」

油断も隙もあったもんじゃない。ビビりながらもプリントをしまう。

「市子のことどうやって守るかは仁さんとも相談してみるな。明日までは仁さんが護ってくれるみたいだし」
「ありがとう…ございます」

鉢屋さんに頭をぽんぽんと撫でられる。さっきまでは怖かったのに、今は不思議と嫌な感じじゃなかった。

「…じゃあお言葉に甘えます。おやすみなさい」
「「「「「おやすみなさーい」」」」」

5人の声を背後に私は寝室へと向かう。
しかし今の私はなにも知らなかった。明後日、彼らを父さんと相談させたことをひどく後悔するはめになることに。


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