『市子、大好き!』
ぼさぼさの髪をした子供が笑う。その少年には獣の耳があった。しかしそう言われた少女は臆することなくふわりと笑顔を浮かべる。
『うん、私もみんなが大好きだよ!』
すると茶色の髪、また獣耳のついた少年がにやりと笑った。
『じゃあ私達両想いだな』
『りょーおもい?』
少女が首を傾げると、先程の少年にとてもよく似た、柔らかい笑顔を浮かべる少年がその問いに答える。
『そうだよ。好きな気持ちが通じたら両想いって言うんだって。』
『へー!らいくんは物知りだね!すごぉい!』
らいくん、と呼ばれた少年は照れながら頬を染める。するとにやにやしていた少年は面白くなさそうに顔をしかめた。
『私が最初に両想いって言ったのに…』
『まあまあ、三郎。両想いなんだからいいじゃん』
『ふんっ』
『拗ねんなって!』
『私は拗ねてない!』
喧嘩しそうな二人の間に黒髪の少年がひょこりと顔を出した。彼の頭には小さな角が生えている。
『豆腐食えばそういうのなくなるらしいぞ』
『兵助は黙ってろ!』
きっと二人に睨まれた少年は、長い睫毛が生えた大きな瞳をぶわりと涙で滲ませる。そしてその顔を隠すかのように隣の少女にぎゅっと抱き着いた。
『市子…二人がひどい…』
『へーちゃん大丈夫?泣かないでー。お豆腐はおいしいもんね!』
『うんっ、市子大好き…!』
『わーい、私もへーちゃん大好き!りょーおもいだねぇ』
『うんっ』
『っ、兵助ずるい!』
『うわあ、さぶくん!?重いよぉー』
先程までぼさぼさ髪の少年と言い争っていた少年は黒髪の少年と逆の背中にしがみつく。
『私だって市子が好きだぞ!』
『ほんと?私もさぶくん大好き!さぶくんと私、りょーおもいだね!』
『〜っ!』
少女が笑うとみるみるうちに少年の顔が耳まで真っ赤に染まっていく。
『あ、三郎の奴真っ赤になってる!つかお前ら市子からはーなーれーろーっ!』
『やだ!ハチが離せ!』
『そうだぞ馬鹿ハチ!』
『なんだと!…仕方ないな、こうなったら行くぞ、雷蔵、勘右衛門!』
『オッケー!』
『うん!』
『そりゃっ!!』
掛け声とともに3人の少年が飛び掛かってくる。そのままぎゅっと5人で少女を抱きしめる形になる。
『うわあ、みんな来た!あはは、楽しいね!』
『楽しい!』
『俺達ずっと一緒だぞ!』
『一緒ー?』
『そうだよ。両想いになったらずっと一緒にいられるんだ』
『へー、そうなんだ!』
『だから市子、ずっと一緒にいような!』
『大好きだよ市子』
『うん!』
それはまだ、嬉しそうに、そしてとても幸せそうに笑った少女が何も知らなかったときの話。