01
私は妖怪や幽霊の類が大っ嫌いだ。
大を百個つけても足りないくらいだ。
それなのに厄介なことに、私はそれらに好かれる体質をしているらしい。あ、好かれるというのは食欲を満たす的な意味だ。
私の家は神社で、代々退魔や巫女を生業としている。なのでもともと霊感は強いほうなのだが、私は家系のなかでも珍しい気を持っているらしく(自分では全然わかんないけど)、それが妖怪にとってはひどく美味い物らしい。私を丑三つ時の外に放り出せば一瞬で私は妖怪の腹の中に消える。それぐらいの吸引力だそうで、今の神主であり退魔師である父さんは私を歩く妖怪ホイホイと呼んだ。やめてください、恐すぎるんで。
それにこの力のせいで私は幼い頃に妖怪に本気で喰われかけたことがあるのだ。その出来事があったため、私は当時の記憶が随分と曖昧になっている。ただ一つ覚えているのは、『妖怪は恐ろしい!』という事実。だから私は妖怪の類が大嫌いでたまらない。なんかもう妖怪とかお化けとか言っただけで涙が出てくるくらいなのだ。
なのに。

「市子が高校2年生になったので、父さんから市子に提案があります」
「なに?」

やけに神妙な顔で父さんが私に話しかける。こういう顔をしたときの父さんはろくなことを考えていない。かなりの確率で私に災厄が降り懸かるというのが私の今までの結論だ。

「市子が通う高校は家から通うのは難しいのはもう1年通ってわかってるね?」
「まあ朝すごく早起きしなきゃいけないもんね。ていうか残念なことにそこが家に1番近いんだよ」
「確かに市子には大学まで行ってほしいし高校はこのまま行ってくれないと困ります。でもここで一つ、父さんにとって市子が高校に行かないことよりもめっちゃ困った事態になりましたー」
「はあ」
「父さん、もうお前を守れません」
「…え」

守れません…だと…?
私が今までこうして生きているのは父さんが私を狙う妖怪を退治してくれていたからだ。てっきり大丈夫だと思って(まあ一応一番近いとこにはしたけど)高校生活してきたのに。それじゃあ私は高校生活を終える前に妖怪のお腹の中じゃないか!…あ、想像しただけで涙出てきた。

「うわあ、泣かないで市子!えっとさ、ほら、父さんこの辺りの土地の管理やってるだろ?」
「ぐすっ…、うん…」
「でも市子の行く高校は父さんの管轄外なんだよ。今まではこっそりやってたんだけどこないだ偉い人にばれちゃってさー。ほんとはこのまま市子を助けたいんだけど、そうすると父さん仕事クビにするって言われたんだよね。やばいね!」
「やばいとかそういう次元じゃないよ!?それは困るよ!」
「だろ?だからもう守れないってこと。ごめんな」

仕事が無くなるのは困る。
めったに帰ってこない売れっ子退魔師(母さんには巫女の才能がなかったそうだ)の母さんの収入だけでは生活は出来るが、このだだっ広い神社やらを管理していけないのだ。神社が汚いと父さんの力も弱まるというし。しかし、このままでは私はどうなるのだろう。私は言ってはなんだがあまり術をうまく使えないのだ、自分を守るすべがない。

「そこで!市子を死なせないようにさっき言ってたけど父さんから提案がありまーす!」
「し、死なない道があるの!?」

死んでたまるか。妖怪の腹のなかに入って死ぬなんて、そんな恐怖体験は真っ平ごめんだ。あんなに恐いのはトラウマ完成のあのときだけでいい。そのためにならなんでもしてみせる!

「うん、市子。妖怪と契約しなよ」
「嫌だ!」

前言撤回。妖怪が関わらない方法でお願いします。

「ダメだって。市子死んじゃうよ?」
「それも嫌だ!」
「我が儘言わなーい。退魔師は術だけで倒せない妖怪の対策に、他の妖怪と契約をして力を獲得するんだからね。まさに今、市子は生きるか死ぬかの瀬戸際を味わってるんだからちゃんと選択しなさい」
「ひどい選択だ…。ていうかもはや選択肢ないよね!!」

生きるか死ぬか?そんな風に言われてしまったのなら生きたいに決まってる。でもこんな妖怪のことを考えるだけで泣きそうになる私が契約なんてできるんだろうか。ていうか契約した途端にぱくり!なんてことにはならないよね?

「大丈夫だよ。もし市子が生きたいんなら、契約するのは学園の妖怪だからね」
「学園?妖怪に学校なんてあるの?」
「そうだよ、妖怪にも強い奴弱い奴がいるからね。強い妖怪にやられないように強くなりたい子とかが集まるんだ。んで、上級生…まあ人化した姿はお前と同い年くらいかな?年齢は大分上だろうけど。そういう子は、希望すれば人間と契約が出来る。あそこの学園長…まあ大妖怪様なんだけど、彼は人間が好きなんだよ。だからあの学園の生徒たちは簡単な理由で人間を襲わないように訓練してるのさ。もともと人間に好意的な子たちばかりだし。まあ、こっちが危害を加えなければの話だけどね」
「そうなんだ…」

確かに喰われる不安がミリ単位でも減ったのは嬉しい。かといってそんな簡単に妖怪と契約する!って断言できるわけもない。死にたくない。なのに弱い私は迷ってしまう。

「父さんは昔知り合った妖怪と契約してるから学園にはお世話になってないけど、そいつとか母さんの知り合いが学園にいるから学園長には話通してあるし。…どうするの。市子」
「え?」
「生きたいの。それとも喰われて死ぬの。父さんは契約してくれたら嬉しいけど、市子は妖怪苦手だからねー。あっはっは」

あっはっはって、父さんそんな軽く娘の生死話さないでください。

「決めるのはお前だよ。市子」
「!」

父さんの目は本気だった。
…そうだ。迷ってなんかいられない。まだ妖怪は恐い。今だって嫌すぎて泣き叫べるもんなら泣き叫びたい。でも、私は生きたいんだ。まだ父さん母さんの娘でいたい、このままこの世とおさらばなんかしたくない。だから頑張る。

「…っ、契約、する」

どんなことになるかなんて、恐すぎて想像すら出来ないけど。


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