父さんと私、それにあの5人の分(と会ったことはない父さんの妖怪さんの分も頼まれた)のチャーハンを作りあげたのはいいが、すっかり冷蔵庫の中身がすっからかんになってしまった。私もここまでの量を作り上げたのは初めてですっかり疲れ果ててしまい、ぐったりと机に突っ伏す。
「うー…疲れたー…」
「お疲れ様、市子。でも後で晩御飯の食材買いに行って来てね?父さんはこれから仕事だから」
「え」
「いってらっしゃい」
父さん、私は疲れたと先程言ったばかりなのですが。じっと父さんの顔を見つめるが、にこっと笑われて終わりだった。
どうしても私が行けってことですか…。
「お供に誰か連れていけばいいよ。交友を深めないといろいろ困るしね。あ、適度にだからね適度に」
「…えー」
「うわー、さっきより不満そう」
「だ、だって」
「1人で外に出て妖怪に食べられるのとどっちがいい?」
「連れていきます」
じゃあよろしくね。とそのまま父さんは立ち去っていく。
そうだった。連れていかないと死んでしまうわ。でも一体誰を連れていけばいいのだろう。あのなかで1番まともそうなのは不破さんだろうか。今までを比較してもミリ単位の差だけどまだ安全そうだし。うん、やっぱり不破さんにしよう。そう考えていると背後からいきなりぎゅっと抱き着かれた。ぐえっ、ちょ、苦し…!
「オレが行くのだ」
「その声は久々知さん!?っ、絞まってる!首が絞まってるのではやく離してください…!」
そういうと久々知さんは渋々といった表情で腕を解く。妖怪に食われる前に死ぬかと思った。
「ていうかさっきの話聞いてたんですか?」
「たまたま市子探しに歩いてたら聞こえた。行こうよ」
「え。久々知さんとですか?」
「オレじゃ不満?」
久々知さんと一緒に買い物とか不安でしかない。そんな気持ちがバレたのか、途端に久々知さんの瞳がうるりと滲む。その顔は卑怯だ…!ここで久々知さんを断って不破さんを誘ったらきっと久々知さん大泣きするだろうなあ。なんて面倒な事態。それだけは絶対に避けたい。仕方ない、腹を括ろう。
「わかりました。お供に久々知さんお願いします。着いてきてください」
「!うん、うん!行くのだ!ありがとう市子っ!愛してるっ」
「ぐわっ、だから絞まってるっ!」
その後なんとか久々知さんを引き離し、準備を始めた。しかしここで思ったのだが久々知さんって普通の服持ってるのだろうか。制服は父さんが準備してたのだろうけど、流石に買い物に制服というのもなんだかなあという感じだしちょっと確認する必要があるだろう。
私のほうの準備は出来たし、とりあえず久々知さんの部屋に行ってみよう。
「久々知さん、入りますよー」
「ん、どうぞー」
「あの久々知さん、私服って…うわあああ!?な、なんで半裸!?」
目の前には上半身裸の久々知さん。うわあ色白いなーっていやいやそういうことではなくて!
「着替えてるなら開けないでくださいよ!心臓に悪い!」
「え、だって市子になら何見られても困らないし…」
「私が困るんですよ!」
「市子は純粋で可愛いな」
「この状況で可愛いとか言われても心底嬉しくない…いいからはやく服を来て!」
だめだこの人話が通じない。私服とか聞く以前に半裸って!バタンと扉を閉める。「もういいよ」という久々知さんの言葉を信じて再び扉を開けると、そこには学生服ではなく、すっきりとした服装の久々知さんが立っていた。
「あれ、私服持ってたんですか?」
「うん。学園で人に紛れる実習があってそれに必要だったから。あと必要な分は少しだけ仁さんがくれた」
「そうだったんですか」
「あ、もしかして用件ってこれ?」
「はい。出かけるのに不便かと思ったので。でも心配要らなかったですね」
取り越し苦労だったなあと思っていると、目の前の久々知さんの顔がほんのり赤く染まる。え、なんで?
「市子がオレを心配してくれた…!」
「そこ!?」
いつも抱き着くときには顔色ひとつ変えないのに…。やっぱり久々知さんは不思議だなあ。
「って早く行きましょう。晩御飯の支度をしたいので」
「ん。了解」
そう言うと久々知さんは私の前に手を差し延べる。
「なんですかこの手」
「繋ごう」
「え!?」
「…嫌?」
不安そうな久々知さん。その瞳には涙が滲んでいる。…あれ、これなんてデジャブ?
「つ、繋ぎます。繋げばいいんですね!?」
こうなりゃ自棄だと久々知さんの手を握る。
あ、体温低いんだな、久々知さんって。やっぱり龍も爬虫類系に入るのだろうか、と若干の現実逃避とともにちらりと横を見るとものすごく笑顔の久々知さんと目が合った。
「ありがと市子!」
「…いーえ」
あまりにも嬉しそうな久々知さんにいろいろとツッコむ気力も失せる。
最初っからこんなんで大丈夫なんだろうか。そんな気持ちでいっぱいになりながら、私は久々知さんとスーパーに向かった。