「で、結局どういうことだったの?」
「あー。今日の?」
お説教を終わらせた父さんに私は問い掛ける。(ちなみに肝心の彼らは父さんにかなりダメージを喰らったらしく動物状態のまま動かない。…死んでないよね?)
父さんはふむ、とひとつ頷き口を開いた。
「父さんは今まで市子を護るときに自分の契約した妖怪に市子を見守らせてたんだよね。だけど今回から父さんは手が出せなくなったでしょ?すると1番危険なのは学校とその周辺な訳」
「どういうこと?」
「学校とかって負のエネルギーが溜まりやすいんだよね。ほら、よく怪談とかでも学校が舞台になるじゃない。すると悪い妖怪たちがその辺りに集まってきやすくなる。だって恰好の餌場だし。そんななかに市子いたらどうなると思う?」
「た、食べられますね。確実に」
「はい正解。そうしないように今回の作戦なんですねー」
にこっと笑って父さんが動かないままの彼らを指差す。
「こいつらまだ半人前だから父さんの使役する奴らみたいにちゃんと完璧なお仕事できないんだよね。それならどうするってそりゃ市子に張り付かせるしかないでしょ?くっついてりゃいくら半人前の妖怪のたまごたちだろうと仕事してくれるかなーって。まあ目つきのよろしくない狐となかなかに食えない狸は上々の仕事っぷりのようだけどね。うーん、彼らのなかで仕事分担でもしてたかな」
目つきのよろしくない狐と食えない狸って…その呼び方はどうなの、と思いつつも楽しそうな父さんの話は続く。しかしよくよく考えてみたら今日の出来事って引き金は父さんなんじゃ…。
「違います。市子が妖怪ホイホイだからです」
「心読まないでよ!」
「だって父さんがやったのは転入届けと保護者代理だけだもん」
「だもんって…」
その時、ふと私はとある疑問をもった。
「久々知さんと尾浜さんはなんで隣のクラスだったの?その考えならみんな私のクラスに来るんじゃない?」
私は2組だが来たのは鉢屋さん竹谷さん不破さんの3人だけだ。久々知さんと尾浜さんは1組に転校している。3組はいっぱいで入れなかったのだとしてもみんな2組でない理由はなんなのだろうか。やはり5人も一気に来るのは不自然だからだろうか。
「ほら、やっぱり不自然っていうのもあるけど、万が一他のクラスに妖怪が紛れた場合に対処しづらいから。分担したほうが安全かなって」
「ああ、なるほど」
「…後はあの2匹が1番市子に対するスキンシップが激しいから」
「は?」
今なんか違う単語が聞こえたような…え、スキンシップ?なんで?
ポカンとする私を無視して父さんは複雑な顔で続ける。
「本当はあのバカ犬もだったんだけど1組は2人までって言うから諦めたんだよねー」
「ちょっと待ってどういうこと?」
「だから今まで彼らがこっちに来てから市子に対するスキンシップかなりうざかったでしょ?だからちょっと隔離してやろうかなって!」
かなって!じゃないよ!父さんどっちかというとそっちのほうがメインみたいな顔してませんか。まあ確かに前半の意見もその通りだと思うしスキンシップが過剰なのも合ってるけどそのせいで久々知さん泣きながら抱き着いてきたんだからね!?
なにを言いたいか伝わったのか父さんの眉間に皺が寄る。
「…やっぱり失敗したかな。転入は狐共だけにして狸と龍と犬には外回りさせりゃよかった」
「それはひどいですよ仁さん!」
「クラスも違うのにこれ以上市子と離れろっていうんですか…!」
「頑張りますから頼みますって!」
「いや、いいんじゃね」
「うんうん。その分僕たちが市子ちゃんと仲良くするからね」
「うわあ!?」
「もう起きたのか…。やっぱり手加減はいらなかったかな」
いつの間に起きたのか、5人が一気に詰めかけてくる。しかし姿が妖怪のままなので可愛いんだか怖いんだかよくわからない。体は完全に拒絶反応を出しており、じわりと涙が浮かんだ瞬間−−−
「だっからそれを反省しろっつってんだろアホ共がぁ!」
父さんの怒声と共に彼らが思いっきり吹っ飛んだ。
「父さーん!?なにしてんの!?」
「もう嫌になるわ。まったくオレの可愛い可愛い娘にほんとなにしてくれてんの?反省しろ猛省しろ!」
「父さん落ち着いて!」
「もういいや、市子行こう。父さんお腹すいた。…昆奈門あとよろしく」
『はいはい』
「ぎゃあ!」
天井裏から再び現れた影が5人をまた連れていく。…あーあ。
父さんはそれを完全にスルーして私の背中をぐいぐい押して、お昼ご飯は何かを聞いてくる。いいの?え、あれいいの?
「オレはチャーハンが食べたいな!」
「…えー」
とりあえず、みんなの分もちゃんと作ってあげようかな…作れれば…。
そう思いながら私は父さんに背中を押され、部屋を後にした。