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帰り道もひたすら騒がしかった。
がやがやと、手を繋げだのなんだの言ってくる5人はただでさえ人目を惹く容姿をしているのだ。目立って目立って仕方ない。周りの視線の痛々しさに自分のノミ以下の心臓が破裂するかもしれないと結構本気で思った。
大体なんでこの人たち私に対してこんなにスキンシップが激しいんだろう。やはり私のこの体質は契約した妖怪にも効くんだろうか。…あれ、それなんて死亡フラグ?つまり彼らが手をつなぎたがるのは私を食べるための下準備だというそういうあれか!?

「うわああ嫌すぎる!!」
「え、なにが?なんか嫌なことでもあったの?オレが全部無くしてあげよっか?」
「ぎゃあ、尾浜さん!いいえ大丈夫です!」
「ならいいんだけど。前にも言ったけど、何かあったらオレに言ってね!オレがぜーんぶなんとかするからさ」

独り言が口から洩れていたらしい。尾浜さんにツッコまれてしまった。危ない危ない。爽やかに笑う尾浜さんだが言っていることは割と危ない。よし、スルーしよう。

「ただいまー」

ようやく着いた我が家の安心感は半端なかった。素晴らしい、素晴らしすぎる。だがしかし、安心するのはまだ早い。
私は父さんの部屋の襖を思いっきり開け、父さんの元に乗り込んだ。

「父さん!」
「あ、おかえり市子ー」
「これどういうこと!」

これ、と言いながら堂々と人化を解いた彼らを指差すと、父さんはへらりと笑った。

「うまく学校生活できてた?」
「出来てるわけないでしょうが!おかげで教室といい外といい悪目立ちしたし、もうどうしたらいいの!ていうかやっぱり父さんの仕業だったのね!」
「出来てなかったの?だめじゃないかアホだねー」
「そこじゃないから!」

父さんは怒る私をスルーして5人に話しかける。いつものへらへらした笑顔だったがどこか真剣さがあるように感じた。それは5人も感じていたようで一気にきりっとした雰囲気になる。

「…で、学校にはいた?」
「いませんでした。市子を狙う妖怪は昼間には出没するものが少ないようです。ただし今日はそんなに学校にはいませんでしたのではっきり断定できるわけではないでしょう」
「まあ今のところは上級の妖怪はこの辺りにいないようですので少しは安心しても構わないと思われます」
「そう。ご苦労様」

いつものふざけた様子とは違い、真面目に報告する鉢屋さんと尾浜さん。そんな顔もできるのか…と思わず感心してしまう。それに私を狙う妖怪はいなかったって、つまりはあの短時間で調べていたということ?

「…見直しました。ただの怖い人たちじゃなかったんですね。ありがとうございます」
「おいなにげに失礼だぞ」
「ぎゃあ、すいません!」
「でも見直したってことは株が上がったってことだよね?いいことじゃない、このまま恋愛フラグ立てようね!」
「近い近い尾浜さん、顔が!顔が近い!!」

や、やっぱり前言撤回!
みんなに引きはがされる尾浜さんを見て、私は強くそう思った。

「さーて、ではここからはお説教の時間です。市子」
「は、はい父さん!」
「今日の彼らの反省点を述べなさい」
「え!?っ、はい!」

父さんの目がかなり本気で「言え」と訴えかけている。正直妖怪よりも私の父さんが1番怖いんじゃないだろうか。

「えっと、いきなり転校してきた設定についていけない上に竹谷さんは松下君に殺気飛ばしてたし、授業中に不破さんや鉢屋さんたちがうるさかったけどなぜか私だけ怒られた。あと久々知さんと尾浜さんが嫌になるくらい私にベタベタしてくるから嫉妬した女の子の目線が怖い。あと好奇の目線がすごすぎて泣きそう。外でも私にやけに絡んでくるから知らない人も私のことめっちゃ見てきた…。どれもこれもみなさんの顔が整いすぎてるせいですよ、このイケメンどもが!…は!すいません!」
「市子、イケメンは褒め言葉じゃない?」

とりあえず言い切ると父さんが笑いを堪えながらツッコんできた。そ、それ以外になんて言えばよかったのさ。尾浜さんたちは何も言わない。もしかして怒らせちゃったのかな?それとも反省してくれた?そう思ってみんなの顔を覗き込む。すると。

「しょうがないだろ!あいつが市子の手に触れたやつだと思ったら我慢なんか出来るわけない!」
「せっかく隣になったのに話しかけないなんて出来ないよ!僕は市子ちゃんとお話ししたいよ!」
「仕方ないだろ、市子がオレの隣にならないのが悪い!」
「だってクラス違うし…市子が足りないからすぐにぎゅってしないと嫌なのだ!」
「そうそうクラス違うんだからこれくらいわがまま言ったっていいでしょ?」

一斉にこれだけの返答が返ってくる。だめだこの人たち全然反省してない…!というか私がなんで困ってるかいまいち?むしろ全然わかってないよね、これ!

「そっかー。そんなことになってたんだねー。お疲れ市子」
「と、父さん」
「ちょっと久々に9割の力でお説教しようかな!…というわけでこっち来い。アホ5人!」

父さんがそういったかと思うと謎の黒い影があっという間に5人を奥の間へ放り込んでしまった。え、なに今の。怖っ!

「じゃ、いってくるね!」
「は、はい…」

相変わらずの笑顔で奥の間へ行く父さん。しばらくしてこの間のデジャブのように「いい加減にしろ、オレの娘に何してくれとんじゃこのアホが!」という父さんの怒声と「ごめんなさーい!」という5つの声が聞こえてきたけれど、もう聞かなかったことにしよう。

「はあ…」

明日からのことを考えると、また気が重くなりそうだ。


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