10
昨日は散々だった。いや、一昨日も散々だったけど。あれ、これ私の毎日ここのところ全部散々じゃない?おかしいな。

あれからわんわん泣き続けた私と謝り続ける彼らは父さんの登場により引きはがされた。あのあと奥の間から彼らの「ごめんなさーい!!」という声やら絶叫やらが聞こえてきてかなり恐ろしかったが、疲れというものは恐怖を上回るらしく、しばらくするとすぐに眠ることが出来た。
そして今日も朝から(前に怒ったのにもかかわらず)私の部屋にあの妖怪5人は忍びこんできていて、目を開けて早々私は大声で叫んでしまった。ちなみに今日目を開けてはじめに見たのは不破さんと鉢屋さんと竹谷さんだった。多いよ!なんで揃いも揃って私の寝顔覗き込むのかな!

しかしなんだか今日は5人の様子が変な気がする。いや、いつも変だけどそうじゃなくて。

「いってらっしゃい、市子!」
「い、いってきます?」

やけに潔いのだ。昨日は延々と学校に着いていくだの連れてけだのとうるさかったのにいったいどういう心情の変化だろう。怖くないし楽なので別にいいんだけど、ここまで潔いと怪しく感じてしまう。

「じゃあ市子。今日からはこのアホ5人がなんとかするから頑張ってね!ちゃんと生きて帰ってくるんだよー」
「重いことさらっと言わないでください、お父さん」

そんなこと言ってもお父さんのこの性格はいつものことだ。今更どうしようもないだろう。

「あれ、でも登校時大丈夫なの?尾浜さんたち着いてこないみたいだけど…」
「大丈夫大丈夫!ちょっとこの子らは準備が必要だから遅くなるだけだし。登校途中はまあなんとかなるから!」
「ちょっと待って、なんで一番大事なところを濁すの!?」
「だーいじょーぶだから!ほら、遅刻するよ!」
「えええ…」

父さんの不安溢れる言葉を聞きながら私は不安な気持ちで学校へと向かった。
これで死んだら恨んでやるからね…!

***

学校へ着くとなんだか随分教室内が騒がしい。どうしたのかと友人に訪ねると、彼女は目をキラキラさせてこう言った。

「今日転校生が来るのよ!」
「へー、そうなんだ」
「興味関心ないわねー。なんか見た子が言うにはものすごくイケメンらしいわよ?男子ばっかりだから女子を期待してた男子勢はガッカリみたいだけど」
「あはは。それにしてもイケメン好きだねえ」

そういうと彼女は「当たり前でしょ!」とやけに意気込む。私にはいまいちよくわからない。まあかっこよくないよりはかっこいいほうがいいけどさ。そういえばあの5人も妖怪だし中身は…まああれだけど、見た目だけならものすごくいいんだよな…。あれが残念なイケメンってやつだろうか。

「ちーちゃん、うちのクラスにも転校生来るの?」
「多分ね。でも一人じゃないみたいだから隣のクラスにも行くんじゃない?3組は人数多いから来ないだろうけど。きっと1組と2組で分けられるんじゃないかしら」
「ふーん」

男の子だからあんまり仲良くなれるか自信ないけど、でも喋る…いや、顔を覚えてもらうくらいにはならないと!うん!

「顔見知りになるね!」
「いや、クラスメイトになるんだから喋るのよ!アピールしとかなきゃ!」
「…おお」

彼女の私にはないその行動力にはいつも驚かされる。そのまっすぐさがわたしはとても好きなのだがときどき圧倒されてしまうものがある。

「お前ら席につけー」
「あ、先生来たわ。ついに転校生が見らるわね!」
「もう、落ち着いてよ」

そわそわする彼女。いや、よく見たらクラスの女の子たちみんなそわそわしている。え、どうしよう。私もそわそわするべきだろうか。そっちより今は己の生死についてのほうがそわそわ出来るんだけどな。

「みんなもう知っていると思うが、今日は転校生を紹介する。うちのクラスは3人だ」

転校生多くないですか!?これ一体1組には何人入ったんだろう。そう考えていると先生が扉をがらりと開けた。入ってきたのはどっかで見たことある顔ばかり。

「どーも、竹谷八左ヱ門です!」
「はじめまして。不破雷蔵です」
「鉢屋三郎だ。よろしく」

やけにいい笑顔を浮かべながら自己紹介をする3人。…いや、これ違うよね?他人の空似だよね?

「彼らは観寺の親戚らしい。仲良くしてやってくれ」
「…は?」

親戚?え?誰が誰の?
斜めの席の彼女が私の肩を揺さぶる。多分なんで教えてくれなかったのとかそんな話だろうが、聞きたいのはこっちだ。
相変わらずものすごくいい笑顔でこっちを見てくる3人に恐怖と不安と混乱を覚え、私は思わず痛くなった頭を押さえた。


prev next
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -