09
「な、なにを考えてるんですか!」

気が付いたら私は5人に向かって叫んでいた。途端にきょとんとする彼ら。まるで何か悪いこと言った?とでも言いたげな表情だ。

「け、け、消すなんてだめです!そんなこと絶対だめ!させないです!」
「やっぱり市子はそいつのことがオレたちより大事なんだー!」

うわーんと火のついたかのように泣き出す久々知さん。
泣きたいのはこっちだよ!もはや私は恐怖の臨界点を超えていた。怖いとか言って気絶なんてしてられないという気合いと、この5人のバカな考えを止めなければいけないという使命感でなんとかなっている状態だ。妖怪の恐ろしさは私が1番知っているし、彼らの言葉が冗談なんかじゃないってことはさっきまでの行動と目を見ていればすぐにわかる。このままじゃ私より先に松下君が妖怪の手にかかって死んでしまう。

「市子はオレたちを置いていくのか」
「そんなのやだ!ねえ市子ちゃん、僕に悪いとこあるなら直すから言って?置いてかないで。そばにいて。そばにいさせて!」
「嫌いにならないでくれ!さっき怖がらせたの謝るから!」
「そんな男よりオレたちのほうが市子のこと大好きなんだよ?」
「行かないで市子っ!」

そもそもこの流れはいったいなんなんだろう。なんで私を護るとか言ってる妖怪たちが私のクラスメイトをボッコボコにしようとしてるの?しかもなんでこんなどさくさに紛れて抱きつかれまくってるの?私、近づきすぎると泣くよって言ったよね?

「い、いいですか、みなさん」

私が口を開くとあれだけ騒がしかった声が一気に止んだ。まだ涙目な彼らを見て私はとりあえずこのうまく動かない口で、思っていることを言っておくことにする。

「私は、みなさんを置いてくことはしません!絶対に!」

そう言うと不安気な表情でこっちを見つめる10個の目。びくりと体がまた強張る。

「本当に?嘘じゃないよね?ね?」
「う、疑うんですか?だってみなさんを置いていったら私死んじゃいますよ!」

なんのために怖さと戦って覚悟して、契約を半強制的にした(させられた?)と思ってるの。妖怪ホイホイと呼ばれるこの体質でも、なんとか生きてくためだ。

「市子が死んじゃうなんてやだあ!」
「なら松下君をけ、消すことも、今のこのわけわかんない状況もやめてくれるとすっごく嬉しいです。みなさんが怖すぎて、今かなり泣きそうです」

言いたいことはまだまだあったけど、ぷつりと緊張の糸が切れてしまった。緩んだ涙腺から涙がぼたぼた溢れてくる。
でも怖かったけど、不思議と後悔はなかった。朝は部屋から出ていけと言うだけでも怯えたのに。もしかして今ので恐怖心が麻痺してきてしまっているのだろうか。あれ、それはちょっとまずいんじゃない?
そうしている間にも涙は止まらない。

「うわあああ泣かないで市子!」
「ハンカチ!はやくハンカチ持ってこい!」
「よーしよし。オレがぎゅーってしてあげるからね!」
「バカ!1人だけそれは許さねーぞ!ほらほら泣くなよー!」
「ほら、もう怒ってないから!」

さっきまでの怖い発言を連発していた彼らと本当に同一人物だろうか。そう思ってしまいたくなるくらい必死で私を慰める彼ら。そのギャップがさらに私の涙腺を崩壊させる。

「う、うわああああん!みなさんの馬鹿ぁ、こっ、こわ、怖かったああ!」
「わー!もうこんなこと言わないから!ごめん!市子ー!」
「うぇええん!」
「ごめんってばー!」

自分の家の玄関で洪水みたいにわんわん泣きつづける私と、それにしがみついて謝り続ける5人。傍から見たら絶対不気味な光景だよなあ、と的外れなことを考えながら、私は泣きつづけた。


***


「泣きわめく女の子ひとりに男(獣耳と尻尾付き)5人が抱き着く光景って大分シュールだと思わない?」
「うるさいよー昆奈門。…にしてもうちの可愛い可愛い市子を泣かせるなんて、どうしてくれようかあの獣5匹」

不意に低い声がする。しかし仁はそれに驚くこともせず、そのまま天井へと話し始めた。獣5匹と言い放つ仁に、昆奈門と呼ばれた天井裏の影は苦笑する。

「仁はそこそこ親バカだねえ」
「オレと桃子の娘だよ?可愛いに決まってるじゃないか。しっかしあれだね。ちょっと失敗したと思った」
「明日からの作戦、かい?」

明日から、仁は市子を護ることが出来ない。だからそのかわりに彼ら5人が市子の護衛をするのだが、そのための作戦を仁たちで立てていたのだ。

「うん。ちょっと協力しなきゃよかったな!って思ったよね。あれ見てるとね」
「まあ今も市子ちゃん自分でなんとかしてるからねえ。多分明日からもなんとかしてくれるよ」
「…とりあえず、この行動の落し前はつけさせるよ。いざとなれば尊奈門もいるし」
「こっわいお父さんだこと」
「ははは。褒め言葉だぞ!」

さて、我が娘は明日どんな反応をするのやら。怒られたくないなあ、と思いながら仁はにやりと笑った。


prev next
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -