07
「うわ、ひどい顔」
「…へ?」

無事遅刻せずに教室へと到着した私に開口一番にそう言う友人。

「市子なんかあった?なんだかものすごく疲れ切った顔してるわよ」
「そ、そんなにすぐわかっちゃうくらいひどい!?」
「ひどい。大分ひどい」

彼女がそこまで顔を歪めるということは今私の顔はかなり疲れ切っているのだろう。思い当たる原因を問われたが、流石に「家に妖怪が来ちゃって☆」なんて言えない。言ったら彼女のことだ。とうとう私を病気扱いするに決まっている。私が妖怪を見ることが出来ると知っているのは両親とほんの僅かな知り合いだけだから。

「きっと寝不足だからかも。その上今日は遅刻寸前だったから」
「あんた気をつけなさいよ。ただでさえ最近体調崩す子多いって噂になってるんだから」
「まじ?気をつけるね。ありがとー」

鞄を下ろして机に座るとどっと疲れが沸いて来る。家の騒がしさから解放されたのもあってひどく眠かった。これは1時間目は完全に睡眠学習になりそうだ。ごめんなさい先生。そう思いながら私は目を閉じた。


***


「観寺さん、観寺さん!」
「ん…?」

遠くから聞こえるチャイムの音と誰かの呼び声で目が覚めた。周りの様子を見ているとどうやら1時間目の授業は終わってしまったようだ。よかった、当てられなくて…。

「観寺さんってば!」
「うわあ!…って松下君?」
「随分良く寝てたね」
「ご、ごめん!最近寝不足で!」

大きな声に振り返ると、隣の席の松下君がこちらを見ていた。どうやら先ほどの声は松下君だったらしい。寝てるところを見られていたのかと思うと今更ながらものすごく恥ずかしくなる。うわわ、これ絶対顔赤いよ。

「それで私に何か用だったんだよね?」
「あ、うん。観寺さん今日日直だよね。席順だからオレとなんだけど、黒板消すのと日誌書くのどっちがいいかなって」
「日直!すっかり忘れてた!そうだなー、じゃあ私日誌書くよ。あ、でも松下君希望あった?」
「あはは。実はオレ黒板が良かったんだー。だから観寺さんが日誌選んでくれてラッキーって思ってた」
「あはは!」

にかっと笑う松下君。松下君は結構面白くて、女子でも話しやすいほうの部類だと思う。うーん、こういうタイプはモテるんだろうなあ。

「じゃあオレ黒板消してくる!あ、そうそう観寺さん」
「…飴?」

ぽんと手を握られる。一瞬ぎょっとしたけど手の中には堅い感触。そっと開くとそこには飴があった。しかも私の好きないちごミルク味だ。

「それあげるよ。甘いもの食べてさっさと寝ちゃえ。…太るけど」
「もう!でもありがとね」
「おー」

そしてそのまま黒板を消しに行く松下君。うーん、やっぱりモテるタイプだ。

「夜にでも食べようかな」

ポケットに飴をしまうのと同時にチャイムの音が響く。

それからは1時間目以外は無事に寝ないで過ごすことが出来たし日誌もきれいに描くことが出来た。だから暗くなる前に家についたんだけど…。

「あー、忘れてた…」

そうだ、家には彼らがいたんだ。思い出すとまた疲れがどっと込み上げてくる。すかたない、覚悟を決めよう。

「ただいまー」
「お帰り市子!会いたかったー!」
「ぎゃあ、竹谷さん!?」

扉を開けた瞬間に竹谷さんに抱きつかれた。あんた久々知さんに怒ってたくせに自分はやるのか!私は驚きすぎてちょっと泣きそうだぞ!

「お疲れ市子。もうオレ、市子がいなくてすごい寂しかったんだ…ん?」
「え、どうかしましたか竹谷さん」
「…なあ。市子」
「は、はい…?っ、痛!た、たた竹谷さん!なんか締まってますけど!痛い苦しい!」

ぎゅうと力が篭った竹谷さんの腕。苦しさに抜け出そうとするも力が強すぎて身動きがとれない。

「た、けや…さん!」
「市子」
「だからなんですか…ひっ!」

無理矢理首だけを上にやって、竹谷さんの表情を伺おうとする。するとそこには。

「それ、誰の臭いだ…?」

さっきまでの彼からは考えられないほど恐ろしい、無表情の彼が立っていた。


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