01
学園長は考えていた。
学級委員長委員会には六年生がいない。
同じく委員長代理が主になって活動しているのは火薬と生物だが、先日この二つの委員長たちが忍務から無事に帰還している。よってこの二つの委員会にはきちんと委員長が存在しているのだ。しかし学級委員長委員会に所属できる六年生はもういない。どの六年生も委員会に所属済みなのである。
このままでは少々知識に偏りが出てしまう可能性がある。確かに現在委員長代理の鉢屋三郎は六年生にもひけをとらないが、経験や知識が確実に劣る。
そこを補うためにどうすればいいのか。

「そうじゃ、いいことを思いついたぞ!」

学園長の笑みが深くなる。彼は気づいたのだ。足りないのは『忍たま』の六年生であるということを。

「ヘムヘム、少し呼んできてほしい奴がおるのじゃが…」



***


「なあ、勘右衛門。聞いたか、生物と火薬に委員長が帰ってきたんだとよ」
「兵助が嬉しそうに言ってたよ。まあ、あいつはそれよりも今日面白いことに巻き込まれ始めたからそっちに必死かもな」
「なんだそりゃ、気になるから最後まで言ってくれよ」
「多分兵助から直接聞いたほうがいいぞ?…ん?一年以外に部屋に誰かいる?」

勘右衛門の言うとおり、部屋からは一年生の二人以外に少し高めの、むしろ女の声がする。今日来客が来るなんて話はなかったはずだ。ざわりと湧き上がってくる警戒心をおさえ、二人は一気に扉を開けた。

「おい、こんなとこでなにし」
「はい、鉢屋三郎君覚悟ー」

三郎が言い終わる前にやんわりとした声が言葉を遮った。間髪入れず三郎の上から金だらいが降ってくる。

「な、なんだ!?」
「っ、三郎!」

あわててよけると勘右衛門の声と同時に足元からカチリと音がした。その瞬間三郎の体はふわりと宙に浮いた。

「なんだこれ!!」
「鉢屋三郎捕獲完了ですねぇ」

足に絡まる縄を見て、意味が分からないと三郎が顔を顰めると、部屋の奥で先ほどの声が響いた。綱を手にもった彼女は三郎の顔を一瞥したのちすぐに傍にいた一年生二人に話しかける。

「いいですか、黒木君、今福君。鉢屋君のように反射神経の良いお方に罠を仕掛ける際は、このように着地するポイントを予測し、予めそちらのほうにより強力な罠を仕掛けておくのが大事なんですよ」

そう言ってふわりと微笑む彼女は、くのたまの桃色の服を見に纏い、先程三郎を捕らえる際に引っ張った縄を手で弄っていた。

「あとは奇襲でしょうね。今は彼に少し油断がありましたからかかってくれましたけど、普段の鉢屋君ならこんな罠は二重トラップとはいえぎりぎり回避されてしまうでしょうし」
「なるほど…」
「勉強になります」
「お前たち感心してるバヤイか!」

キラキラとした眼差しの一年生たちに思わずツッコむ三郎。それを見て苦笑する勘右衛門がスパリと手持ちのクナイで縄を切った。

「大丈夫か三郎。つか自分で切れただろうに」
「意味がわからないことが多すぎたんだよ。はー、なんなんだ一体…というかお前は誰だ!」

未だに三郎に謝罪もしないくのたまの少女は一年生に向けていた視線をすっとずらす。暫く間が空いたかと思えば「忘れてた」と小さく呟く声が聞こえた。

「そういえば名乗っていませんでしたね。はじめまして。私、くの一教室六年生、蛍と申します。本日付で学園長先生の命により、学級委員長委員会の委員長代理補佐…長いですが要約すると委員長になりました。よろしくお願いいたしますね」

長い説明を一息で言い切った彼女に三郎と勘右衛門がぱちくりと目を見開いた。
今、何て言った?

「はあ!?…ていうか、年上!?」
「ええっ、委員長って、え!?」

思わず声が大きくなる二人に庄左エ門が答える。

「学級委員長委員会に六年生の先輩がいないので、学園長がくのたま唯一の六年生にお願いしたようですよ」
「庄左エ門…」
「冷静だな…」
「蛍先輩はくのたまですが、悪い人ではないと思います」
「彦四郎もか…。なかなか短期間に手懐けたものですね」
「ちょ、三郎!先輩だから!」

にやりと笑う三郎にも蛍は動じた様子はない。それどころかへにゃりと笑い返した。

「まあそんなに警戒なんてしなくていいですよ。私、委員長とはいえ仕事は貴方の補佐なんですから。ね、鉢屋三郎君」

余裕たっぷりのその顔に三郎は頭に血が上るのを感じた。

「っ、私は別に補佐なんかいらない!」
「あっ、三郎!」

勘右衛門が止めるのも聞かず、三郎は部屋を飛び出す。ぽかんとする一年生。部屋には蛍のくすくすと笑う声だけが響いていた。




prev next
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -