03
「ということで、久々知兵助に宣戦布告してきたわけです」

食堂(というかオレらの周り)に沈黙が訪れる。
まっすぐに桐之助先輩を見据えながら言ってのける菊乃ちゃんからは嘘を言ってる様子は一つもない。というかかなり本気らしい。さっきから笑いながら菊乃ちゃんを褒めまくる桐之助先輩は心底楽しそうだ。オレも彼女の凄まじい行動力には驚いてしまった。変に暴走した行動力を持つくのたまは幼馴染のあいつだけじゃなかったのか…。

「オレは、」

突然聞こえた声にふと横を見ると兵助が何とも言えない顔をしていた。まあそれはそうか。だっていきなり宣戦布告なんてされても困るよね。

「君の宣戦布告を受けたなんて言ってないよ」
「…は?」

ちょっと待て、兵助。それなんか違う。そこは宣戦布告されても困るってそこそこ丁重にお断りするところじゃないの?え、なんでいきなりケンカ腰なの?

「どういう意味です?」

ほら、菊乃ちゃんの眉間に皺が寄ってるじゃないか!しかしそんな菊乃ちゃんの顔を見ても兵助の口から訂正の言葉は出ない。ああそうだ、こいつこれでかなりの頑固者なんだった。

「君にいきなりそんなことを言われてもオレは君の名前すら知らなかったし、そもそもそんなくだらない嫉妬でオレを目の敵にするのはやめてくれ」
「くだらない?」

兵助。言ってることは正論だろうけど、たぶんそれは菊乃ちゃんの地雷だ。

「だってそうだろ?というか君はくのたまでオレは忍たまなんだ。力の差だってあるし勝負になんてならないと思うけど?」
「バカにしないで!力の差があるなんてそんな今更なこと言わないでくれる。私だってそこまで間抜けじゃないもの。それに、男より力がなくたって私だってくのたまだもの。頭を使ってそこそこ張り合える自信だってあるわ!」
「そう言われてもオレは君の実力も知らないし、前回の実習でくのたまと組んだ時も君の噂を聞いたことがない」
「仕方ないでしょ、学園長先生のおつかいに行ってたんだから。大体噂が流れるから実力がある、なんてどんな判断基準?そんなこと言ったら花房牧之助なんて最強じゃないの」
「誰もそんな風には言ってないだろ。そもそも花房は弱いって噂になってるじゃないか」
「噂がって言ったでしょ。大体ね…」

あーあ。なんだこの屁理屈やらなんやらがまぜこぜになった会話は。子供の喧嘩みたいだな。そろそろやめさせたほうがいいだろう。だって正直さっきから周りの視線が痛い。つかそこにいるの雷蔵だろ、なんで止めに来てくれないのかな。恨みがましい目で雷蔵を睨むと、雷蔵はうんうんと悩み始めた。ちょ、迷わないで素直に助けてよ!

「兵助、菊乃」

ぽつりと桐之助先輩が口を開く。すると面白いくらいに二人とも静かになった。

「ちょっとうるさいぞー。おばちゃんが怒っちゃうからいったん休戦しておくれよー」
「あっ!ごめんなさい兄様、おばちゃん!」
「…すいませんでした。そして君はオレに対する謝罪はないのか」
「謝罪しなければならないようなことをした覚えなんてないけど」
「ないってよくもまあ…」
「あっはは!もう仲良くなったのかお前たち」

「「ないです!!」」

あ、ハモった。
やっぱりこの二人って似た者同士なんじゃないのかな。菊乃ちゃんをよく知らない俺でもそう思うんだから多分桐之助先輩はもっとそう思っているに違いない。さっきからすごく楽しそうだし。

「なあ勘右衛門はどう思う!?」
「そうですよ、尾浜さん!私がこの久々知兵助なんかと仲良くなんて見えませんよね!?」
「なんかってなんだよ!つかお前が言うな!」
「…いや、大分仲良しに見えるけど」

つか兵助がとうとう菊乃ちゃんをお前呼ばわりしたし。さっきまで君ってよんでなかったっけ。

「…気が変わった」
「へ?」

低めの声にもう一度兵助を見ると、むすっとして兵助にはしては珍しく(豆腐以外のことで)強く表情を出していた。

「やっぱりお前の宣戦布告受けてやる。んで絶対オレのほうがお前より上だってわからせてやるから」
「はっ、とうとうガラの悪い本性が出てきたわね久々知兵助!上等じゃない、兄様の代理を務めてるからって調子に乗らないでよね!」

おや、おやおや?
もしかしなくてもこれはかなり面白いことになってきたのではないだろうか。悪戯好きの三郎と同じくオレだって学級委員長、面白いこと愉快なことは大好きだ。その今までのオレの勘が、『これは見逃すべきではない』と告げている。それならもうじゃんじゃん見守ってやろうじゃないか!

「あっはは!いやー、兵助も菊乃も仲良くなってくれて本当によかった!」
「「だからないですってば!!」」

真似するな!とお互いを睨む二人とそれを心底嬉しそうに見つめる桐之助先輩。
やはりこれはかなり楽しい状況かも!さっきまでの心配していた気持ちはどこかに吹き飛んでしまったので、とりあえず今はいつおばちゃんの怒りが爆発するのかだけ気を付けながら傍観してやろうと思いながら、オレは味噌汁を啜った。


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