02
私には尊敬する兄様がいる。すぐ寝るし爽やかなくせに眠そうだし、だらしなく見えるけど、実は成績優秀だし、いざというときはものすごく頼りになってかっこいい憧れの兄様。
兄様に守られるだけの自分が嫌で私も兄様の後を追って忍術学園に入学した。強くなる。それが私の目標だった。
兄様はとても忙しい人で、よく学園を留守にする。だから久々に会えたっていうのに…!

「それで兵助がなー…」

さっきから兵助兵助って!いや、ときどきタカ丸だの三郎次だの伊助だのとも出て来るけど兵助という男の登場は遥かに多い。いつも兄様と話すとこうだ。私は久々知兵助という人間をよく知らないのだが、兄様の話を総括すると久々知兵助いう男は成績優秀な五年生の忍たまで、兄様が委員長を務めていらっしゃる火薬委員会の一人らしい。兄様がいない間は彼が委員長代理を務めているのだそうだ。
しかしなんでこうも久々知兵助…!兄様が話す人は生物委員長のあの方ばかりかと思っていたのに。あの方なら私の尊敬している人物だし年上だしまだ許せた。むしろあの方のお話を聞けることがうれしかった。だけど久々知兵助がこんなに話の内容を占める日が来ようとは。…悔しい。だって久々知兵助と私は同い年なのだ。同い年なのに私はまだまだ兄様の代理を務められるような人間ではない。わかっている。要は嫉妬だ。

「久々知兵助…」
「ん?菊乃なんか言った?」
「いえいえ、なんでもありません。桐之助兄様、はやく続きを聞きたいです」
「あっはは。嬉しいなあ。菊乃と話すの久々だからいっぱい言いたいことがあるんだよー」

にこにこと素敵な笑顔の兄様の話を聞きながら、私はぼんやりまだ見たこともない久々知兵助の存在を思い浮かべる。どんな男なのだろう。悔しいが兄様が信用する男だ、嫌な奴のわけがない。それが更に私を憂鬱にさせた。嫌な奴だったら嫌うのも簡単だったのに。

「兄様。私、頑張ります」
「え?なに急に。どうしたの」
「ちょっとやらなきゃいけないことが出来たんです」
「ふーん。まあよくわかんないけど頑張って?俺は菊乃のこと応援しちゃうぞ!」
「はい!」

兄様の隣で兄様を守れるくらい強くなる。だから私、頑張ります。久々知兵助なんかに絶対負けません。
そうと決めたらまずは久々知兵助について詳しく知っておくことが必要だ。そう思って私は、兄様と別れた後、同室の子に相談することにした。彼女の幼馴染は確か忍たま五年だったから。

「久々知兵助?知ってるよ。勘ちゃんのクラスメイトだもん」
「ほんと!?」

予想外だ。彼女の幼馴染とここまで接点がある男だったとは。他に何か聞き出せないかと思って私は情報を求める。

「どんな男!」
「ええー、私も大して話したことないぞ?していうならなんか真面目そうな男だったかな。あとくのたまにそこそこ人気があるね。ほら、鉢屋とかのあの集団は目立つでしょ?」
「あー…じゃあ見たことはあるのかな。全然顔一致しないや」
「菊乃たいして忍たまに興味ないよね…。しいていうならおんなじ委員会くらいじゃない?君が顔覚えてる忍たま」
「あはは…その通りです」
「んとさ、あれだ。頭ふわふわの双子っぽいのが不破と鉢屋。ぼっさぼさの焼きそば頭が竹谷、丸っこいうどんみたいな髪の毛なのが勘ちゃん」
「はいはい、なるほど一致したわ。ん?てことは残ってるうねった黒髪が…」
「そうそう。それ久々知兵助」
「それか!!」

やっと顔がわかった。目立つ集団に存在してくれたことに心底感謝するよ久々知兵助!まあ記憶がおぼろげだからなんとなくのレベルなんだけどね。

「ありがと!やっとこれでいける!」
「告白でもするのかい」
「は?」
「ん?違った?忍たまに大して興味ない菊乃がそんなに情報求めるから惚れたかと思ったんだけど…いや、顔も覚えてないのにそりゃないかー」
「あたりまえでしょう!」

いきなり何を言うんだこの子は!私がしようとしているのは告白なんてそんな可愛らしいもんじゃない。

「私、久々知兵助に宣戦布告しに行くの」
「へー…。って、え、なに?宣戦布告?」
「そうよ、私、絶対久々知兵助には負けられないんだから!」

少々力みすぎた発言に彼女は目を丸くしてたけど、すぐににんまりとした笑顔になった。

「楽しみにしてるねぇー、結果わかったら教えてよ」
「わかったわ。頑張る」

そうよ、私絶対負けたくないの。久々知兵助のことを知って、彼に勝てればもっと兄様に近づける気がするから。

「打倒、久々知兵助!」

とりあえず明日この気持ちを直接久々知兵助に言わなければ。勝負は正々堂々じゃなくてはならないのだ。


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