02
オレの所属する生物委員会の委員長、篠田椿先輩はすごい人だ。
いつもはマイペースだけれど、オレや後輩たちが困っていたら絶対に助けてくれる。かといって甘やかすんじゃなくてちゃんと自分自身が答えにたどり着けるように導いてくれるやり方で。
でも善法寺先輩の不運が移ったのか、篠田先輩も食満先輩のように巻き込まれ型不運だとオレは思ってる。だって学園長からあんなめんどくさいお使いばかり頼まれるなんて絶対不運だ。忍務ばかりじゃないってことはわかってるんだけどどうも心配なんだ。それに先輩はすぐふらふらいなくなるから。

「…先輩」
「やあ竹谷」
「やあ竹谷、じゃないっすよ!なんであんた裏山にいるんすか!」
「え、裏山行きてーと思ったら体が勝手に裏山を目指してたからついうっかり」
「うっかりで半日も帰って来ないんじゃ困ります!!」
「一日じゃないだけマシだろう。まったく竹谷は真面目さんだなあ」

木の上でぼーっとしている先輩に、あんたが不真面目なんだよ!と叫びたい気持ちを押し込めて、オレはため息を吐いた。
この人は狡い。自分がどういう人間なのか、相手がどういう人なのかを客観的に見る力がものすごく秀でているのだろう。自分がどこまで踏み込めるのか、相手がどう動くのか全部見透かしている気がする。

「篠田先輩はほんと掴めませんよねー」
「竹谷なんかに掴まれるわけにはいかないよ」
「…さりげにオレのこと馬鹿にしてませんか?」
「バレたか」

ケロッとした顔で言い放つ先輩に苛立ちも薄れていく。
ほんとにこの先輩は…。

「さてと帰ろうかって…うわっ!?」
「椿先輩!?」

ずるっとバランスを崩した先輩が木から滑り落ちそうになる。
危ないと思った瞬間にもう体が先に動いていた。先輩が無理やり体制を整えようとする前に先輩の体をキャッチする。

「おー。竹谷ナイスキャッチ。つかさっき名前で呼んだな?」
「それは…ってそうじゃなくて!焦ったー!!なにしてんですか!!」

こんな時でも表情ひとつ変えない先輩。先輩は基本的にあまり表情が変わらない。先輩曰く「いや、普通に笑えるよ。ただいざって時のために出し惜しみしてるだけ」ということらしい。なんで出し惜しみするのかはよくわからない。長く付き合っていく間に少しずつ表情を見せてくれるようになったけど、いまだに下級生の中には先輩を怖がっている奴らも多いと聞く。

「つかさっきの受け身、若干適当に取ろうとしてませんでしたか?」
「まあいざとなったら竹谷が何とかするかなと」
「なんという他力本願…!先輩、さすがにまずいです」
「いいんだよ、結果竹谷が助けてくれたわけだし」

つまりこの人はオレが受け止めるのも予想してたってことだろうか。それなら最初っから落ちるなんてドジ踏まないでほしい。

「うん。まあ気を付けます。ありがと竹谷」
「はい」
「…」
「…」
「…竹谷。そろそろ降ろしてくれないか」
「へ?」

そういえば先程から先輩を抱えたままだということに気が付いた。
結構余裕なかったんだな、という考えのなかでふと気づく。

「先輩軽いっすね」
「…ケンカ売ってんのかい」
「い、いやそんな!」

でもかなり軽い部類だ。確かに先輩は近距離で攻撃するようなタイプじゃない。むしろ遠距離で支援するタイプだけどあまりにも軽い。それに腕も細いしやわらかい。筋肉が付きにくい体質とは聞いていたけどもこれじゃあまるで…

「女の子みたいだ」
「竹谷くたばれ」
「すいませんでした!」

いつもの顔が嘘みたいにあまりにも鋭い目つきで睨むもんだから思わず反射で謝ってしまった。
やっぱり気にしてるんだろうな。だって先輩、すっごい綺麗な顔だし…っていやいや何を考えてるんだオレは!
動揺を隠すかのように先輩を降ろすと、先輩はくわあと大口をあけて欠伸をする。
やっぱこんな堂々と欠伸する人が女の子なわけないよな。…うん。ないない。ってあー!なんでがっかりしてんだ!?この先輩とはもう五年も付き合いがあるっていうのに!!

「こら、竹谷。帰るよ」
「う、うす!」

宜しい、と言って珍しくふわりと笑った先輩の顔があまりにも可愛くて一瞬どきりとしたなんて、そんなの気のせいに決まってる!


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