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「椿。一族の掟を覚えているか」
「はい、父上」

私の家はいわゆる幻術を使う一族の中のひとつだった。普段は大道芸の一族として各地を廻り、時に忍びと契約して力を貸す。そのために私も強くあらねばならないという意識が強かった。
幻術とは人を騙し惑わす技、といえば人聞きは悪いがその技の多くは人の盲点や先入観を利用することにある。「こんなところにこんなものがあるはずない」というその「あるはずはない」という思い込みが幻術の基本のひとつだ。もちろん術のなかには巨大な龍の幻覚をみせるなどの強力なものもあるが、私はまだ修行の身。そのような術は父上や長など強い術者しか使えないのだ。

「おまえももう10になった。そこで掟に乗っ取りお前を修行の旅へ出す」
「はい。…性別を偽って、ですね」
「そうだ。篠田の一族は幻術使い。人の盲点をつく技術が必要になる。そのためにも性別を偽るというのは最も手っ取り早い方法なのだ」
「して私はどこに行けば宜しいのでしょう。お隣の奏兄様のように京に溶け込むのですか?」
「いや、お前は忍術学園に行ってもらう」
「…え?」

性別を偽るのは今までも何度か経験はあった。大道芸として見世物をしていたときは私は性別を偽って舞台に立ったし、一回の公演で男も女も両方演じたこともあった。しかし忍術学園に入るとなれば話は別だ。あそこには優秀な忍びのたまごたちがたくさんいると一族のなかでも評判だし、何度か家に仕事を依頼してきた優秀な忍びたちも忍術学園出身のものが数多くいた。私なんかの男装はすぐに見破られはしないだろうか。
不安そうな顔を父上に見破られたらしく父上はふっ、と笑った。そのまま軽く柔らかく私の頭を撫でる。

「父上?」
「安心しなさい椿。お前のその技術は篠田家でも上位のほうに入ると思っていい。私はそんなお前の能力を見込んで他の子どもたちより厳しい訓練をお前に強いたがそれをお前は見事にやり遂げている」
「…っ、はい」
「だからお前のやるべきことはもっと数多くの経験を積むことだ。周りに優秀な忍びのたまごたちがいるということは己の実力が試されるいい機会だと思え」
「はい」
「だから誇りをもて。仮に女だということがばれたのなら、そこから切り抜ける方法を考えることだ。実力不足を上手に補うためには素直にばらして協力関係を結ぶのも有りだからな」
「はい」
「大丈夫だ椿。お前はこの篠田家で産まれ、今まで修行を積んできた。存分にこの修行生活を楽しみなさい」
「はい!」



学園につくと、どうやら学園長やほかの先生方には父上が事情を話してくれているということがわかった。掟に従い、顔を変える変装や名前を変えることはしない。まあ後に胸が大きくなったらサラシは巻くことになるだろうが。父上はばらして協力関係を結ぶのも有りだと言っていたが、なるべく期待に応えられるように努力していこう。とりあえず『卒業するまでは誰にもばれないようにする』というのを私の目標にしていこうと決めた。クラスは一年は組になるようだ。
同室の男の子はい組の子だったがいい人のようで安心した(常に眠そうだがやけに爽やかだから好感がもてる)し、これから頑張っていこうと思った。


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