彼女は家庭科室でウェディングケーキを作成してました
寮生は戦慄した。
食堂の食事を担う存在であるおばちゃんが腰を痛めたらしく、しばらくお休みするというのだ。食堂は彼女と食事当番である寮生でなんとかしているが、男子寮のこのメンバーのなかにおばちゃんが抜けても上手く料理をすることの出来る人間はいない。そもそも多忙な人間が多いため、時間を割けないのだ。

「どうしよう…」
「黒古毛さんが来るんだろうな」
「嫌だ!」

食堂のおばちゃんが倒れた場合、大抵来るのは黒古毛さんという料理研究家だった。しかし彼の作る料理といったらゲテモノで、とてもじゃないが寮生たちは好んで食べようとは思えない。そもそもその際にはおばちゃんがすぐ復帰したから堪えられたものの、今回はいつ復帰するかがわからない。そんな状況で彼の料理などを食べつづけることなど寮生たちにとっては絶対に嫌なことであった。

「誰か代理にオレたちに料理作ってくれそうな人いないんスかね」
「この学校にそんな奴いるか?」
「探してみればなんとかなるかもよ」
「黒古毛さんの料理を食べるくらいなら探したほうがマシです!!」

誰かがそういうと全員が頷いた。そして彼らは学園中で料理が出来る人物を探しだし、代わりに料理を作ってもらおうと考えたのであった。


****

「…といってもそう簡単に見つかるわけがないっつーの!」

三郎の言葉に雷蔵たち4人が同意する。

「そうなんだよねー」
「僕らの友達はみんな忙しそうだし」
「かといって対して親しくないやつは情報がないし」
「立花先輩少しくらい情報くれたって…ん?」
「どうした八左ヱ門」
「なんかいい匂いがしないか?」

八左ヱ門の言うようにどこかからか甘い匂いがする。中等部のしんべヱを連れてくればよかったと考えながら5人は匂いを辿った。

「ここは…」
「家庭科室?」

匂いの元は家庭科室から漂っているようだった。しかし本日調理実習は行われていないはずなのに何故このような甘い匂いがするのだろう。不思議に思った5人は教室を覗き込む。するとそこには巨大なケーキ、むしろウェディングケーキと呼んでもよいような代物があった。

「な、なんだこれ!?」
「すげーな…」
「誰が作ってんだこんなでかいの?」
「観察してみよーぜ!」
「つかうまそう!」

学校の家庭科室で作られたとは思えない程の見事な出来に思わずまじまじと見てしまう。一体誰がこんな立派なケーキを作ったのだろう。そう思った彼らは扉の向こうをじっと観察することにした。

「あ、誰か来た!」

奥の部屋から大きなボールを抱えて一人の女子生徒がやって来た。長めの髪を一つに括り、三角巾とエプロンという完全に料理のための格好。どことなく大人しめの印象を受ける。

「誰だあれ」
「さー、わかんないや」
「見たことないよね?何年生かな」
「同い年か…いや、でも知らないな。つかうちの学校に家庭科部なんざないよな?」
「あんなケーキ作れるくらいなら名前くらい知っててもいいと思うんだけど…」

鼻歌まじりにクリームを塗っていく彼女。正直名前も知らないのでむやみに話しかけることも出来ない。そのまま見つづけていると彼女がこちらを向いてびくりと肩を震わせた。

「やべ、ばれた!」
「怪しいものじゃないぞ!」
「そ、そうそう!ただケーキが…」
「ケーキおいしそうだなって!」
「え、えっと!」

わたわたと慌てる彼らを見つめる彼女は不思議そうに首を傾げた。手元のクリームの入ったボウルを机の上に置くと、彼女はぽつりと口を開いた。

「…ケーキ、食べます?」

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テーマ「人外ファンタジー」
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