ちくたくちくたくちくたく。

時計の音。

ベルも少し緊張しているのか、珍しく軽口も叩かず黙って立っている。
私たちの視線の先には、机に足を上げたまま報告書を読むボス。
もう結構長い時間こうしている気がする。
だからといって私は何も変わりはしないのだけど、ベルはちょっとイライラしてるみたいにユラユラし始めている。
足が疲れたのかもしれない。
私と違って、こういうのは慣れてないのかもしれない。

「おい、ドカス」

ボスがようやく上げた声。
小さく、はい。とだけ応えた。

「下がれ」

「・・・・はい」

「ししっ、やった!」

ベルはさっさと踵を返し、ご機嫌に部屋を出ていこうとする。
私も後に続く。
すると、背後から声が上がる。
唐突だった。
ズシッと空気が重くなるような、威圧感を受けて振り向く。

「テメェがちょっとでも怪しいと思えば、遠慮はしねぇ。精々気をつけるんだな」

「・・・わかっています」

「・・・持ってけ」

投げられた小ビンを受け取る。
白い粉の少量詰まったもの・・・これは・・・

「見ての通り毒だ。使い道はテメェ次第だ」

「・・・・・・ヴァリアーに刃を向けそうな時が来たら、使えばいいんですね」

「・・・・・・」

「ありがとうございました」

感情がこもってない声。
感謝などしていない、と思う。
物を受け取ったときの、ほんの形式のようなもの。
でも、ボスは使わないと判断してこれを寄越したんだろうと思う。
生きたきゃこの暗殺部隊に尽くせと、言われた気がした。

部屋を出るなり、小ビンを興味ありげに眺めるベル。

「それ。どーすんの?」

「持っとく」

「ふーん。オレ、ボスが誰かにものをやってんの初めて見た」

「毒だけど」

そう返すと、ベルはうしし…と小さく笑った。

「どうせ死と隣り合わせの世界だぜ?毒かとかカンケーねぇじゃん」

ひどく気軽に言った王子は、楽しそうに笑う。
そして覗き込んでいたビンから、私に視線を移す。

「少なくとも、あいつら始末する任務終わるまではヨロシク頼むぜ。
あいつ等弱ぇーけど、わんさか来るから戦うの楽しいし。獲物減らすなよなぁ」

「・・・努力するわ」

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