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・・・・・・。
拾ってこられてまもなく、ゆりかごの失敗によりボスを失ってバラけたヴァリアー。
その本邸に、いつのまにか人の気配が戻っていた。
だんだんと日常になっていく。
もともと、私の”仕事”は別のところにあったのに。
その日も、ただの暗殺任務だった。ベルと一緒に言って来いと。
ボスは無駄な事は話さないから、それだけだった。
私も興味がなくて、書類は全部ベルが軽く目を通しただけで、彼もどうでも良さそうだった。
私は無機質に殺すだけ。彼は、遊ぶだけ。
「あーもう、めんどくせー」
言いながらも次々切り伏せていく。
ナイフで斬り捨てられたゴミたちは、真っ赤な鮮血を迸らせて暗い地面に消えていく。
電源を落としたから、屋敷内は真っ暗だ。
人々は混乱していて、そんな中殺して進むのは簡単だった。
「・・・・・・」
「あっおい、人の獲物とんなよ」
「・・・私の標的でもある」
「チッ」
スライサーが皮膚を裂く時に引っかかるザリザリした感覚。
肉に突き立つ時の滑るような感触。
溢れる血が迸る視界。
骨にかすって刃が傷む時の痺れ。
そんな感覚たちは、走りぬけながら全て後ろに置いて行く。
「ベル、銃」
「見えてるっつの!」
人の頭を踏み台にして大きく跳躍し、二手に別れて機関銃を避ける。
向こうは見えてない。適当に撃って当たるはずが無い。
後ろを取って、首に当てたナイフをさっと振る。
裂けた傷口から溢れた血をお互いに浴びながら、数人の男達は崩れ落ちて行った。
「・・・・・・」
「あーあ、このホールのやつらは全部やっちまったみてーだな」
「・・・みたいだね」
「つまんねー、一人くらい手応えあるやついねーのかっつーの」
膨れっ面で後頭部で手を組むベル。
あまりにも簡単だった。
これだけ大きなパーティを全滅させたのに。
大きなパーティなら、それなりの権力者が居る。つまり、ガードも固くて当然のはず。
こういうことも、あるのだろうか・・・?
「243号」
「!」
「あ゙?何お前」
ホールの入り口に堂々と、男が立っていた。
拳銃を構えているが、こちらには入って来ない。
賢明な判断だ。ホール内には、ベルのワイヤーが張り巡らされている。
「・・・警察」
「ケーサツ?サツにしちゃ、到着早ぇじゃん。つーか何でお前知ってんの?」
「何故?その娘はね、うちで作られた兵器さ」
「は?兵器?」
「・・・・・・」
ベルが一瞬こっちを見たのが分かった。
微動だにしない私で判断することを諦め、彼はもう一度男を見た。
「心を殺した殺人兵器。・・・ま、警察の裏だな」
「・・・心を殺した・・・・・・?」
「これは・・・罠?」
「そうとも。243号に疲弊してもらおうと思ってね。思いの他弱くて使えなかったが…」
そう言って男は近くの死体を靴の先でつついた。
気持ち悪そうにしている。場慣れしていない。
「警察兵器243番の任務の潜入先が、必要な情報を得る前に壊滅。死体の山から潜入操作中のはずの小娘のナンバーは発見されなかった・・・つまり生きて逃走した」
「それがこいつってワケ?」
「その通り」
「ふーん。それで?」
私はベルを見た。
警察側なら、逃げた私を処分する。
ヴァリアーも、敵となる側に居たことをバレたら処分されると思っていた。
・・・ボスが決めることなのかもしれない。
「それで?ヴァリアーに居るっつー情報が手に入って、うま〜くおびき出して、こいつを消そうってワケ?」
「分かってるじゃないか」
「・・・・・・ねぇ」
「あ?」
「ほう、話せたんだったな」
男が馬鹿にしたように笑った。
普通は、腹を立てたりするものなんだろう。
・・・怒るって、どうやるのかな?
知りもしないことを考える脳は持ち合わせていない。私は男を見た。
「彼も消すつもりで来たの?」
「・・・邪魔をするようならね」
「・・・・・・」
ベルを見ると、どこか楽しそうな顔をしていた。
「オジサンさ、強い?」
「・・・何を言っているのかな?」
「うしし・・・!なぁ梟、アイツ殺るの楽しいと思う?」
「知らない」
「じゃあ試してみよーぜ」
「・・・どうぞ」
2人してナイフを取り出す。
冷たい金属が擦れ合う音がする。
ヴァリアー邸に戻ってどうなるかなど知った事ではない。
もともと、いつだって、いつどこで死んだっておかしくない世界なんだから。
今は、もと飼い主の喉笛を食いちぎるのだ。
暗闇の中で飛んでいく無数のナイフ、絡むワイヤー。
男は再三発砲したものの、その弾丸で私もベルも仕留める事無く、命をもぎ取られた。
「ししし・・・コイツも馬鹿だよなー、弱い癖に一人でくんなっつーの」
「・・・・・」
「帰ろーぜ!」
うーん、と伸びをしてベルが歩き出す。
私はまだ動かない。
「・・・ベル」
「ん?」
「私、帰っていいの」
ベルは振り向いたままじっと私を見た。
いつもと違う無表情。
「・・・・・・あの男嘘つきだろ?」
「・・・嘘は無い」
「あるぜ。お前、心あんじゃん。今だって渋ってる。もうサツの駒じゃねーんだろ?」
「・・・・・・」
返す言葉が見つからず、黙ってしまった私に、彼は歯を見せて笑った。
私の分まで彼が表情を作ってる気がする。
「しし、置いてったらボスに任務失敗って怒られそーだし。行くぜ」
「・・・了、・・・解」
再び、白いブーツで血を跳ねながら歩き出した背中を追いかけて、私も歩き出した。
彼らはきっとまた、私を消しに来る。
あの計画の最終ナンバーは私。
・・・私を消せば、警察の人間兵器は無かったことになるのだから。
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