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「へー」
「・・・」
ゆりかご直前に行ったキャバッローネ邸の話に、フランはどうでも良さそうな相槌をうった。
当日は、私は拾ってこられた身なのでヴァリアー邸に置き去りにされた。
だから向こうで何があったのかは知らない。
一応形式的には知っているが、見てきたわけでは無いから、「梟センパイの過去がききたいなー」とか言い出したこの蛙さんに話すことはない。
「でもゆりかごって失敗したんですよねー?」
「9代目は言わなくても気付いてたみたいだしね」
「そうなんですか?」
「・・・ボンゴレは鋭い」
少し冷めた紅茶を飲もうとカップを取ると、フランも手に取って少し口に含んだ。
私がゆっくり口に運んでいる間に、彼はもうカップをテーブルに戻していた。
「超直感ってヤツですねー」
「あれって血なの?」
「血でしょー。呪われてんですよー、ある意味ー」
「・・・・・・」
「どーかしました?」
「呪いか・・・」
私は少し、ぼおっと顔を上げた。
フランは不思議そうな顔でこちらを見て首を傾げた。
私は顔を上向けたまま、視線だけフランに向ける。
「良いことも悪いことも、結局はそういうもの・・・」
「そうですよー」
「私がこんなところに居るのも、こんな仕事してるのも、全部・・・」
「そこまではわかりませんけどー」
フランはそこで一度言葉を切った。
何?と思って彼を見ると、黙ってこっちを見ている。
顔ごと彼に向きなおって聞き返す。
「・・・けど?」
「ミーは梟センパイが居て良かったと思ってますー」
私は真意が掴めなくて、1,2度目を瞬かせてから、小さく「・・・そう」とだけ答えた。
彼は相変わらずのぼーっとしたような目のままこちらを見ている。
「そこは喜ぶとこですー」
「無表情に言われても」
「これがノーマルなものでー」
「お互い様」
少し笑ってそう言うと、ちぇーっとつまらなそうな声を上げた。
口元を尖らせてみたりはしているものの、その目はそのまま。
私もこんなんなんだろうか。
「それにしてもー」
「何?」
「ディーノって人もウザいですねー」
やっぱり真意が掴めない。
この人は何を考えて話しているのか・・・。
「センパイを引き抜こうだなんてー。断ったから良いようなものの、ミーが居たら許しませんー」
「・・・そう」
さっきと同じように短く答える。
それに対して、フランはしばらく黙って私を見ていた。
「・・・たまには口説くようなことも言ってやろーと思って頑張ってるんですけどー?」
「ありがとう」
「心がこもってませんー」
「フランくんも、ぼーっとした顔じゃなくてもう少し照れたりとかすればいいのに」
「何故ですー?」
「かわいい」
「やめときますー」
少しだけ笑うと、「笑うとこ間違ってますー」と目を眇められた。
「君こそ、表情変えるタイミング間違えてない?」
「間違えてませんー、センパイの表情が変わってこそ言う意味があるんでー」
「へぇ」
「・・・・・・」
「・・・・・・?」
「つまんねー。それで、次は何を話してくれるんですかー?」
・・・次・・・・・・。
「何が聞きたい?」
私の質問に、特に考えるでも迷うでもなく、彼は飄々と答えた。
私も平然と答えた。
「センパイの事ならなんでも。スリーサイズとかでもイイですよ。言わなくてもわかってますけど」
「わかってるなら訊かないで」
「・・・普通と反応違いますよねー」
「そう?」
「違いすぎて、その無神経さが心配ですー」
「そう。それで?」
フランがそこで少しむすっとした顔を見せた気がした。
気のせい・・・かもしれない。
「・・・ミーが知らなそうなことをー」
「わからないよ」
「・・・だから何でも良いです」
「・・・じゃあ適当に」
「お願いしますー」
あまり頼む気の無さそうな言い方。
でもそこはあまり気にせずに、とりあえずその後の事・・・と思って頭を回した。
フランはもう一度カップを取って、今度はゆっくりと飲んだ。
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