4.半神
サクヤの部屋でシャワーを浴びて、先ほどまでとは違う部屋へ向かう。
「ぐらぐらー」
「エレベーターよ」
「えべれーたー?」
「ちょっと違うわね。エレベーター」
「エレベーター!」
できるじゃない、とサクヤが笑って頭を撫でた。
「失礼します・・・」
「お、来た来た」
「遅かったね」
「この子が水は嫌がるわ服は嫌がるわで、時間かかって・・・」
ざばざばかかる水を嫌がって逃げようとするので叱り飛ばした。
おうるは竦みあがって、シャワーの間は大人しくしていた。
服も「ちょっと、かゆいーだね」と言うので、ゆるゆるのワンピースで妥協した。
「これもかゆかゆー」
おうるは肩紐を持ち上げて顔をしかめた。
「・・・我慢しろ」
「そーま、かゆいない?」
「ならない」
うー・・・と小さく唸っておうるは黙った。
「おうるちゃん。これで洋服を作っても大丈夫かな?」
「・・・それ?ふく、ちがうの?」
「もうちょっと僕らの着ているのに近くなるかな」
「ふーん・・・じゃあ、そーま、おなじがいいな」
ぎゅ、とおうるがソーマの服を握る。
「・・・」
「ほぉー、随分懐かれたなぁソーマ。羨ましいなぁ」
「・・・黙れ」
からかうリンドウをソーマがジロっと睨んだ。
サクヤが溜め息を吐いて声をかけた。
「ねぇ、髪、ここで切ろうと思ったんだけど」
「あぁ、全部回収できるしね。助かるよ」
そう言って榊が椅子と大きな紙を取り出す。
床に敷いて、その上に椅子を置いた。
サクヤの取り出したハサミを見て、おうるがソーマの後ろに隠れた。
「座って、おうる」
「そーま、いたくない?」
「・・・平気だ」
言われて渋々椅子に座った。
すぐにザクザク切り出したサクヤ。
切っては榊の持ってきた袋に放り込んだ。
何しろ一度も切っていないから、長い上に大ボリューム。
獣の耳もあるので、切ってしまわないようにするのも大変だった。
整えるのにも時間がかかってしまう。
「…こんなもんでしょ」
「かるいー!」
いいわよ、と言われて、おうるがぴょこんと立ち上がって嬉しそうに跳ねた。
すぐ近くに居たリンドウに飛びつく。
リンドウが勢いに乗せて抱き上げた。
「かるくなったー」
「似合うぞ、可愛いなぁ」
「にあうーいいこと?」
「良いこと」
「いいことー!」
落ちないようにリンドウに抱き付くおうる。
リンドウの後ろに立っていたソーマに手を伸ばした。
「りんどうたかいなー。そーま、にあう?」
「・・・あぁ」
目をそらしながらぼそっと言うソーマ。
態度なんかにお構いなしに、おうるは喜んだ。
「りんどう、にあうって!」
「良かったなぁ」
「さくや、ありがとう!」
「あら。どういたしまして」
暫くはしゃいでいたおうるだったが、そのうちソファでリンドウに抱っこされたまま寝てしまった。
膝の上で丸くなって、リンドウの胸により掛かる。
くーくー寝息が聞こえてくる。
「さて、今調べてみたところ、彼女はほぼ人間だね。」
その言葉に、全員が顔をしかめた。
わかってはいたが、しかし、ほぼとはどういう事か。聞き返したのはリンドウだ。
「・・・ほぼ?」
「外見に少々異常があるからね、”ほぼ”人間だ。細胞的にも人間と変わらない」
「・・・細胞が同じなのに形が違うんですか?」
今度はサクヤが不安そうに聞く。
「いや、少し違うな・・・」
「と言うと?」
「単細胞であるはずのアラガミ細胞のようなものが、彼女の細胞の一部と結合している」
榊はよっこいせと立ち上がって、話を続けた。
「勿論、全てではないけどね。これがどういう事なのか・・・?
考えられるのは、アラガミと人の間に生まれた、もしくは人が何らかの形でアラガミ細胞に汚染された。それか・・・人間から自然発生したか、アラガミから人へ進化したのか・・・」
「結局よくわからないんだろ?」
リンドウの突っ込みに榊は苦笑して答えた。
「そうなってしまうね。ただ、もう少し詳しく調べてみるよ。前例がないというのは、とても興味深いからね・・・」
「・・・」
しばしの沈黙。
榊は笑みを消してソーマを見た。
「・・・・・・ソーマ、もしかしたら他の支部で作られた・・・」
「・・・うるさい」
「可能性としてはあるよ、とだけ言っておくよ」
「・・・チッ」
ソーマはそのまま出て行ってしまい、サクヤとリンドウは顔を見合わせた。
「とりあえず、君達の班のベテラン区画、空き部屋があったろう?あそこを使わせてあげてくれないかな?ヨハンには私から言っておくよ」
「了解」
「じゃあ私も戻るわね。リンドウ、おうるちゃんをよろしく」
「はいはい」
自分の腕の中で暢気に眠るおうるを見て、本人そっちのけで外野が悩むってのも変な話だなと苦笑した。
- 13 -
[*前] | [次#]
ページ:
TOP