透明なニール
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ブラインドで遮られて、外の様子が分からないオフィスの中。
突風がガタガタと窓を鳴らしたと思った次の瞬間、窓ガラスを叩きつけるような雨音が室内に響いた。

そう言えば、台風が来るなんて誰かが言っていたような気がする。
「あー…降ってきちゃったな…」
帰りまでもつと思ったのに、と隣の男が呟いた。
「確か台風のはずですから、今日はもう雨は止まないんじゃないでしょうか。」
「えっ、栗藤それホントに!?うわー、困ったな…。」
「…置き傘、ないんですか。」
「こないだロッカー片付けた時に持って帰っちゃったんだよなー。」
へらへらと笑いながら彼は言う。
持って帰ってしまったら置き傘でもなんでもないでしょう、と思ったけど敢えて突っ込むのは止めた。いつもこんな感じだから。
「せめて近くのコンビニまで誰か傘に入れてくれないかなあ…。」
独り言にしては大きな声で彼が呟く。
私は聞こえないフリをして、仕事を続けた。
窓を叩く雨音は先程に増して激しくなって、静まり返った部屋中に響きわたっている。


紙にペンを走らせる音と、書類を捲る音、
それに、雨音。
強まるばかりのそれに、ちょっとした気の迷いが生じる。

「………フォルリさん、仕事あとどのくらいで終わりますか。」
「え?」
「傘。すぐそこのコンビニまでなら入れて行っても良いですよ。私も1本しか傘ないんで、貸すのは出来ませんけど。」
仮面越しの、彼の表情は分からない。
少しの間のあと、彼が言う。
「あと…1時間以内には終わらせられると思うけど。」
「じゃあそれ以上は待ちませんから、早めに終わらせてください。」

「…栗藤、」
「なんですか。」
「ありがとう。」
「いえ、今回限りですから。さっさと仕事終わらせてください。早く帰りたいんです。」
「……。」

ずぶ濡れになって風邪でもひかれたらそれこそ色々面倒だし、と言う言葉は飲み込んだ。
時計をちらりと見る。
今日はいつもよりは少し早く帰れるかも知れない。

代償は、相合い傘になってしまうけれど。

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110902
デレ藤さん。




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