The devil's voice is sweet to hear.
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普段はお世辞にも仕事が出来るとはいえない彼がなにやら熱心に机に向かっている・・・と思ったら、本業とは然程関係のないことに夢中になっていた。
「珍しいですね、机に向かっているなんて。」
少し皮肉を込めたつもりでそう言ったのだが、彼はいつも通りの口調で
「いや、だってこの時期しか楽しめないからさ。」と返す。
その手元にはハロウィンパーティの企画書。

10月になると社内は誰からともなくハロウィンムードになる。
誰が持ってくるのやら、入り口にジャック・オー・ランタンが置いてあったり、気付かないうちに机の上がお菓子だらけだったり。
ハロウィン当日には何故かパーティまで催される始末。
仮面だらけの社内で、更にハロウィンなんて。
最初に始めたのが誰なのかも分からないけれど、ばかばかしいと思った。
それでもみんな何故かどこか楽しそうで―――表情なんて分かりもしないのに。

「今年も仮装パーティがあるって。」
彼が書類に目を通しながらそう言った。
「今年は何の仮装しようかなあ。」
「仮装もいいですけど、ちゃんとご自分の担当分の仕事は済ませてくださいね?」
「栗藤は何着るの?」
「・・・・・・。」
溜息が出そうになったが、聞こえないふりをして手元の書類に視線を落とした。
なんだってこんなイベントに心を乱されないとならないのだろう。
ようやく終わったゲームと、これからの準備と。やることは沢山あるって言うのに。

「去年の、さ」
色々なことがぐるぐると渦巻く脳内が、彼の声で一旦停止する。
「え?」
「栗藤は去年の仮装パーティ覚えてる?」
「さぁ・・・何かありましたっけ。」
特別な事なんてなかったように思う。
ただ隅っこでじっと座っていたような記憶はあるけれど。
「去年、隅っこでじっとしてた魔女がとんでもない美女だったんだよね。」
淡々とした口調。言葉の意味を掴みきれずについ黙る。
「声をかけようかと思ったら居なくなってた。今年も彼女に会いたいから、楽しみなんだよね。ハロウィンパーティ。」
・・・口説いてるのか、ボケているのか分からなくて彼を見つめた。
「・・・そうですか。」
大した言葉も出てこない。
「今年もしまた彼女に出会えたら、」
彼が私を見る。
「ダンスに誘ってもいいかな。」
仮面の奥の表情が見えたなら、とふと思う。
「・・・さぁ。何で私に聞くんですか。」
「何でかな。栗藤に相談すれば何とかなると思って。」
「・・・私は魔法使いじゃないですよ。」
「そうか、それは残念。」
そう呟いた彼が少し笑ったような気がした。
持っていた企画書を机に置いて、徐に席を立つ。
「じゃあ、ちょっと資料集めに行って来ようかな。話聞いてくれて有難う。」
「あ、はい。」
彼が部屋を出て行くと、さっき飲み込んだはずの溜息が出た。
その机の上の企画書に目をやる。


開催日時:2010年10月31日 19時〜


仮装、今年もやってみても良いかもしれない。
去年の衣装はどこにしまったっけ。
少しだけ頭に浮かんだそんな考えを必死に振り払って、手元の書類に視線を戻した。

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101006
不憫じゃないフォルリもたまにはアリかなっていう・・・。




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