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帰り道で彼を見つけた。
普段ならば声をかける。
「秋山さん」とか「なにしてるんですか」とか。
今日はなぜか言葉が出なかった。
変わりに、ちょっとした悪戯心が芽生える。

このまま黙って着いて行ったら、彼の普段の生活を少し覗けるんじゃないか。
そんな誘惑にちょっとだけ高揚感を覚えて、ココロの声に素直に従うことにした。

彼の家に向かうのと逆の方向に歩く、その後姿を少し離れて追いかける。
・・・・・どこにいくんだろう?近くにこんな道あったっけ?
そう思いながら遅れないように、近付き過ぎないように・・・微妙な距離をとりつつゆっくりと歩く。
彼の隣を歩いているときよりもほんの少し時間がゆっくりに感じて、楽しくなってきた。
木々が揺れる小路を歩くと、風が木の葉を揺らしてざわざわと音を立てる。
ふと足元に気配を感じて視線を落とすと、塀の影から猫が飛び出してきて思わず

「あっ」

声を出してしまった。

少し前にいた彼が振り返る。
目が合って―――
彼が小さくため息をついた。

「・・・何してるんだ。」
「え・・・っと・・・」

気まずくて、でも視線をそらせない。

「秋山さんをみかけたので、それで・・・」
「あとを、ついてきたのか。」
「・・・はい。」
プライベートに触れられるのが嫌いな彼のことだから、呆れただろうか。
それとも怒っているだろうか。
ざわざわとした音だけが耳の奥をくすぐって、
彼が言葉を発するまで――少しの時間なのにとても長く感じる。
「・・・まぁ、いい。」
彼がそういってぽんぽんと私の頭を撫でた。
「・・・ごめんなさい。」
「謝るな。」
「すみません。」
「・・・・・・・帰るぞ。」
彼が私の手を握る。
自然と顔が綻んだ。

「・・・秋山さん、どこに行こうとしてたんですか?」
「秘密。」

今歩いてきた道を戻る。
二人分、横並びの影が小路に伸びている。

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100914
秋山さんは尾行とかされても気付きそうですけども。




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