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知っています。
あなたがいつまでここにこうして居てくれるのか、私には見当もつかないことくらい。
分かっています。
何を告げたところで、あなたが「消える」と心に決めたらあなたが自分の決心を揺らがせないことくらい。
その日が来ないことを、ただひたすら祈ることしか出来ないから、私はそんな現実から目を背けて笑うのです。
「秋山さん、向日葵見に行きましょう。」
そう言うと、目を細めて私を見る。
「今から?」
「今からです。綺麗なところ、知ってるんですよ。」
時計の針は一番高いところに重なっている。幸い今日は快晴。
「…真夏のこんな暑い時間に出歩くなんて、バカがやることだ。」
「帽子とか日傘とか持っていけばそんなに…」
「直射日光を避けたところで、暑いものは暑い。」
タイミングよくテレビから流れてきた天気予報では、「今日明日は真夏日です」なんてお天気お姉さんが言っている。
向日葵は夏の花。こんな日こそ太陽に向かっている姿がきっと映えるのに。
「…じゃあいいです、もう。私ひとりで行ってきますからっ」
「…分かったよ、じゃあ俺もいく。」
一緒に行こうといえば嫌だという割に、一人で行くというとついて来てくれる。
何だか天邪鬼だなあと思って、心の中で静かに笑う。
「秋山さん、帽子もってますか?」
「持ってない」
「じゃあ日傘、貸してあげます。」
秋山さんが一瞬呆れた顔をした。
「?」
「…いいよ、それは。君が使うといい。」
「それじゃあ秋山さんが日射病になっちゃいます。」
傘を押し付けようとしたけれど、押し返されてしまった。
秋山さんの考えていることは、時々よくわからない。
でも、私を心配してくれているんだろうって言うのは伝わる。

「じゃあ、行きましょうか。」
帽子をかぶってワンピースの裾を翻して外に出る。
眩しい日差しと、夏の空。
そこに、私と秋山さんがいる。
それだけで十分な気持ちになれた。

あのゲームの閉ざされた部屋も、
一緒に見た海も、あの公園も、
これから見に行く向日葵も、
そして今この瞬間も、

ずっとずっとこういう瞬間を積み重ねて行きたいのに、と心から思う。

強い日差しを遮るように日傘を開いて、秋山さんより少しだけ前を歩く。

「転ぶなよ」
「転びませんよ、子供じゃないんですから」
そう答えると、後ろからくつくつと笑い声が聞こえた。

ねえ秋山さん、私のお願いを聞いてくれますか?
難しいことじゃないんです、たったの15文字ですから。
“ずっと近くにいてくれませんか”
言葉に出来たら良いのに。こんなに単純なことなのに。
本当の願いは口に出したら遠ざかってしまうような気がして。

「秋山さん」
もし、この一面の向日葵を少しでも気に入ってくれたら。
「何だ」
来年も、その次の年も一緒にここに来ませんか?
「…暑いですねぇ。」
「だから言っただろ」
蝉の声と、夏の匂いと一緒に、この思い出もまたひとつ重ねて、また願う。
来年もここに秋山さんがいてくれますように。
「でも暑い方がきっと綺麗ですよ、向日葵!!」
「どんな理屈だ、それは。」
苦笑する秋山さんに、私もつられて笑う。

こんな時間が、きっと、永遠じゃないことを知っている…けれど。

「ほら、秋山さんあそこですよ!」
黄色い色が河川敷に一面に広がっている。
「…すごいな。」
「でしょう?秋山さんと、一緒に見たかったんです。」

一緒に見たいものが、まだまだたくさんあるんですよ。
だから…

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100713
向日葵の花言葉は、あこがれ・あなたを見つめる・愛慕など。




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