Rain001
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梅雨でもないのに連日降り続く雨は、少なからず気分を滅入らせる。閉まったカーテンから差し込む光は弱々しい。
時計を見ると、気付いたら昼過ぎ。とてもけだるい。
脳が覚醒するまでの数秒で、違和感を覚えた。…そういえば、昨日の夜って
「起きたのか。」
耳に飛び込んでくる声。聞き慣れた、愛しい人の。
「死んでるのかと思った。」
全然起きないから。
「ごめんなさい。」
とりあえず謝ると秋山さんが笑った。
「謝らなくてもいい。それよりも、」
「はい。」
「さっさと服、着たらどうだ。」
彼にそう言われてふと我に返った。何も着ていない事に気付いて頭が真っ白になる。
「あっ、えっ!?」
あわあわと布団で体を包む。彼がくわえていた煙草の煙を吐き出して笑った。
昨日の夜の事を必死に思い出す。
昨日は確か、秋山さんの家にくる途中で夕立ちがあって、傘なんて持ってなかったらびしょ濡れになって、それから…
「とりあえず、俺のTシャツ。お前の服はまだ乾いてないからそれ着てて。」
秋山さんが少しくたびれたTシャツを投げて寄越した。かすかに秋山さんの匂いがするシャツに腕を通して、昨晩の事をまた頭の中で反芻した。
濡れた服を脱ぐのを躊躇っていた。風邪をひくだろ、と秋山さんに服を脱がされて、それから…

あぁ、思い出してしまった。沸騰したヤカンみたいに体中が熱くなる。頭もぐらぐらしてきた。
「…わかりやすいやつ。」
ベッドから少し離れたところにいる秋山さんが煙草を消しながら呟いた。
「思い出した?」
思い出したも何も、恥ずかしくて死にそう。何も言えずに黙っていたら秋山さんが来て隣に腰掛ける。顔も見れない。きっと今耳まで真っ赤なんだろうな…。
「…昨日はあんなに饒舌だったのに」
「――っ、そんなこと、」
耳元で囁く秋山さんに何か言い返さなきゃ、と顔をあげたら唇を奪われた。
ちゅ、音をたてて舌が入り込んでくる。
「っふ…」
秋山さんの舌が歯をなぞるようにしてから私の舌に絡まる。一気に力が抜けた。
ぐらり、体が傾いて、そのまま押し倒されるようなかたちでベッドに沈む。
ようやく唇を解放されて、でも息もまともに出来ない。体中が心臓になったみたいにドキドキしている。
「あ、きやま、さん…」
呼んでみると、髪をそっと撫でられた。
「…あ、の、わたし…こういう、の、」
秋山さんが目を細めて、微かに笑う。
「ああ、知ってる。」
「…秋山さん、」
「うん」
「…大好き、で」
また唇を塞がれてそれ以上言えなかった。好きという言葉をどれだけ口にしただろう。気持ちが届いたのは単純に嬉しかったけれど、だからと言ってこういうのは恥ずかしさがどうしても拭えない。
薄いシャツの中にするりと手が入り込んできて、背筋がぞくりとする。
「あ、…やっ」
思わず声が出てしまった。それでも秋山さんは私の頬や首筋にキスを落としながらあやすように肌にそっと手を這わせる。ぞくぞくとドキドキが止まらない。
「直、嫌だったら、」
「嫌、じゃ、ないです…でもっ…」
「でも?」
「でも…今は、…ぎゅってして、ください…」
酸素が足りなくて、途切れ途切れで吐き出した言葉に秋山さんは一瞬止まって、すぐに私を抱き締めてくれた。
その腕の中の心地よさに、心がようやく落ち着いてくる。
「悪かった。」
秋山さんが言う。私のことで彼が悩む事なんか望んでいないのに。
「どうして、ですか?」
「…無理させた。」
こんな時まで私を気遣ってくれる。
「大丈夫、です。」
彼にとっては気休めにしなならないのかもしれない、と思ったけれどぽつりとそう呟くと、秋山さんも黙ってしまった。
秋山さんに無理をさせているのは、多分私の方なのに。


部屋がしん、と静まり返った。窓の外から雨音だけが響いている。
「…服、まだ乾かないんですよね…」
「あれだけ濡れてたらそんなにすぐには乾かないだろ?」
「じゃあ今日はずっとこのままですね。」
秋山さんとこうして過ごせると思うと少し嬉しい。
「とりあえず、何か食べましょうか…」
私を抱き締めたままの秋山さんは動かない。
「秋山さん…?」
「…もう少し、このまま。」
今日という時間はまだたくさんあるのだ、急がなくてもいい。体温と、体重と、鼓動とを感じながらこのけだるさに身を任せることにして目を閉じた。

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100526




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