嘘×-fake×fake-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
彼女を守っていたあの男が消えてから、彼女の周りには人が常に絶えない。それもこれも彼女自身の人望が成せるわざなんだろうが。
「久慈くん。」
彼女が笑顔で俺に微笑む。こういう瞬間に、「彼女はもう俺のものだ」と言ってしまいたくなる。実際、あいつがいなくなってからは彼女の隣にいる権利は俺が勝ち取ったようなもので。
「なに、直さん。」
あいつのように呼び捨てに出来ないのは、俺の方が年下だから。なんとなく。
「ご飯、何がいい?」
「…直さんの作るものなら、何でもいいよ。俺、好き嫌いとかないし。」
「そっか…じゃあ今日はオムライスにするね。」
にっこりと笑い、キッチンに向かう彼女の後ろ姿を見送る。
居間に腰掛けて、彼女を独り占め出来る優越感にだけ浸れたらどんなに良かっただろう、と考えた。
今、彼女の隣に俺がいても、彼女の心の中に、そしてこの部屋にも…秋山の影が住み着いているのは明らかだから。
腰を上げて、キッチンに立つ彼女に近寄る。
近付いて、後ろから抱き締めると彼女の動きが止まった。
「直さん、好きだよ。」
半分本当で、半分嘘の台詞を吐いてみる。
「久慈く…「俺のこと好き?」
無言のまま彼女は振り返って、俺の腕に半分収まったままじっと俺を見つめる。
その白い指でそっと俺の腕に縋って、いつもより優しい瞳で俺を見て微笑む。
「好き…だよ。」
躊躇いがちにそう呟くから、何も言えなくて彼女を抱き締める事しか出来なかった。
嘘だ、そんなの分かってる。嘘かどうかを彼女に問いただすことなんか意味はない。俺を見てるようで、秋山を重ねて見ているのも全部、全部分かってるのに―――…。

それでも。ねぇ、貴女があいつの代わりだと思っていてもいい。俺は貴女が欲しいんだ。

「久慈くん、これじゃご飯…作れない、から…」
「あ、ごめん。」
彼女を解放すると、少し気まずそうに料理に戻る。

…そんなにもあいつの事が好きなのに、こうして俺を甘やかしているのは、優しさなんかじゃないのに。
あいつの元に帰りなよ。そう言い放てたらこの気持ちも楽になるんだろうか。
…でも言えないんだ。貴女との時間を少しでも失いたくないから。例えそれが気休めの恋人ごっこ的なものだったとしても。
「…向こうで待ってる。」
「はい。出来たら呼ぶね。」
顔だけ振り返ってそう言う彼女は、相変わらずの笑顔で、胸の奥に何だかよく分からない感情がまた渦をまく。
「分かった、待ってる。」
こちらも負けじと笑顔で返して背を向けた。

貴女の気持ちも言葉も態度も全てが嘘だって言うなら、もうそれは真実じゃだめなのかな。
ねぇ、その奥にある真実なんか俺の目の届かないところにしまっちゃって、もっと本気で演じてくれたって良いだろう?「仮初の愛情」ってやつを、さ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

100523




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -