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「お酒が良かったです」
「我が儘言わないの」
ちょっと出してみた駄々は一蹴されて、だけどくすぐったくて思わず笑ってしまう。自分の分のビールと私の分のオレンジジュースを律儀に用意してくれた彼は怪訝な顔をするけど。隠すみたいに首を傾けて窓の外を見た。夜風が吹き抜けた。
「涼しいですねー」
「湯冷めするぞ」
「しませんよ」
「ほら、向こうむいて」
私の背後に座って、がしがし頭を拭いてくれる。残ってた水気が飛んだ。くすぐったさに目を細めた。動物みたいだなぁ私。保護者と子どもどころか飼い主とペットみたいに思われてたらどうしようか。缶を傾ける。お風呂上がりで乾いてた気がするお腹の中にするりと流れ込んでいった。
「こんなもんかな」
「ありがとうございます」
最後に手櫛で大まかに整えてから、秋山さんは私の隣に腰掛けてプルタブを引いた。ぷし、と軽い音。
「おいしいですか、ビール」
「お前が飲んでもおいしくないよ」
「何でですか」
「お子さまにはまだねぇ」
「ひどい!」
くつくつ笑う秋山さんは確かに大人だ。歳も体も性格も仕草も何もかも。やっぱり8歳差はなかなか埋めるのが難しいなと思う。紛らわすみたいにまた一口飲んだ。当然だけど少しも酔いはしない。
「秋山さんって彼女とかいないんですか」
「どこかの女の子のお陰で億の負債を賭けたゲームに駆り出されてるからね、そんなの作ってる暇はないかな」
「……ごめんなさい……」
「冗談だよ」
ぽかんと暢気に浮かんだまんまるい月をぼんやり眺めてみる。肩に掛けてもらったタオルで意味もなく頬を擦った。
「お前はいないの、彼氏とか」
「いないですよ」
「そう」
「理由、聞かないんですか」
「いいよ別に」
聞いてくれたら良かったな。すごく素敵な男の人を知ってるからそこら辺の人となんて付き合えないって正直に言えたと思う。
「秋山さん」
「何」
「どうやったら大人になれますか」
「いきなりだな」
「いきなりじゃないですよ」
「……説教くさいことしか言えないしな。とりあえずそのすぐ騙される性格を直すところから始めた方が良いんじゃない」
「……今頑張ってるところです」
「頑張って」
今気がついた。いくら大人になったって、親にとって子どもは子どものままなんじゃないかな。秋山さんにとって私が、一人の女の人になる日なんて永遠に来ないんじゃないだろうか。
くしゃりと、大きな手が頭を撫でる。
「大人ねぇ」
隣を見ると秋山さんは、なんだか翳った顔をしているように見えた。どうしたんですか、と聞こうとして、きっと教えてもらえないだろうと何となく分かってしまった。親は子どもに何かと隠すものだ。
ぐいとまた一口、甘いオレンジジュースを飲んだ。
「ならなくて良いのにな、大人なんて」
切実な声を、聞こえないふりをした。

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1ヶ月記念に飴玉と夜の晶さんから頂いてしまいました…!!
もうどうしようこのパパ山。どうしてくれよう…!!(落ち着いて!!)
晶さん本当に有難うございましたー!!




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