Rain 002
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「退屈です。」
雨ばかりで外出が出来ない週末が続き、直が布団に突っ伏してそう呟いた。
秋山はいつも通り床に座って、革張りの重そうな本を一定のペースでページを捲り続ける動作を止めない。
「秋山さん」
ベッドの上で直が秋山を呼ぶ。返事はない。
「…出掛けませんか?」
「…何で。」
秋山がようやく顔をあげる。
「だってこんな天気じゃ洗濯も掃除も出来ないですし、気が滅入っちゃいます。」
「こんな日に外出しても別に気分は晴れないだろ。」
むー、と子供のように頬を膨らませて黙ってしまった直に秋山は折れる。大体いつも通りの流れ。
「…分かったよ…。」
途端に晴れた笑顔を見せる直。そう、これがあるから…。

雨の中、2人で傘を開いて街に出る。
「こう、もっと雨が楽しくなるような秘訣があれば良いんですけどね。」
直がぽつりと呟いた。
「…新しい傘、買ってみるとか。」
「秋山さんはビニール傘ですもんね。新しい傘、買ったら雨が楽しくなるかもしれませんね。」
「いや、おれはコレで十分。雨が楽しくないのはお前だろ。」
秋山がそう言うと、ああそうでした、と直は思い出したように言う。
でもせっかくだから、と新しい傘を見に行く事にする。

通りを歩いて、直が好きそうな雑貨屋の前で足を止める。
時期的にもレインコートやレインブーツ、そして傘が沢山並んでいた。
「秋山さん見てください、このレインブーツ可愛いです!!」
カラフルな水玉模様のそれを見て秋山を呼ぶ。
「子供みたいだな。」
「そんなことないですよー。」
また少し不服そうにそう呟いて、直はレインブーツの物色を再開する。
秋山は傘を見ようと、店の奥に進んだ。

あれでもない、これでもないと、色とりどりのレインブーツを眺める直の元に秋山が戻る。
「買うのか?それ。」
「うーん、迷ってるんですけど…あれ、秋山さん傘買ったんですか?」
秋山の手元には、新しい傘がある。すぐ使うつもりなのか、ラッピングはしていない。
「いや、これはお前に。」
「え?でも私、」
「良いから。」
秋山は傘を押し付ける。
「開けば分かる。」
直は首を傾げた。
「で、それ買うの。買わないの。」
そう訊かれた彼女は綺麗に並べられたレインブーツをちら見して、今日はやめておきます、と答えた。
「じゃ、行くか。」
ビニール傘を広げ秋山が一足先に店から出て、直が元々持っていた傘を寄越すように手を伸ばした。直は素直に秋山に傘を手渡して、さっき押し付けられた傘を広げる。

「…う、わぁ!!」
途端に歓声があがる。
傘の内側には、快晴の青空が広がっていた。勿論そういう柄であるだけなのだけれど。
「すごい。秋山さん、これすごいです!!」
さっきまで気が滅入るなどと言っていたとは思えないはしゃぎぶりに、秋山は苦笑した。
「…これ、良いんですか?貰ってしまって…」
はっ、と我に返ったように訊く。
秋山は勿論、と答えた。
「これで雨も少しは楽しくなるだろ。」
笑顔で頷いた直の足取りは、行きよりもずっと軽やかだった。
これから先雨が降る度に、彼女が「出掛けましょう」とせがむかも知れないな、と秋山はふと考えた。
でもそれで彼女の太陽のような笑顔を見られるなら、雨も悪くもないと思い直す。

「秋山さん、」
「何」
「…雨も、悪くないですね。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

100529




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -