の神
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ベッドに腰掛けている秋山さんの隣に座る。つけっぱなしのテレビの中では、多分流行の歌手が歌っている。でも秋山さんは興味がなさそうだ。
日々こうして、暇さえあれば秋山さんの家に入り浸っている。最初のうちはさっさと帰れとか来るなとか言っていたのに、最近は何も言わない。少しだけ、受け入れて貰えたような気分になっているけれど、実際は呆れられているだけかも知れない。

「秋山さん、今日…」
「勝手にしろ」
泊まっても良いですか、と聞く前に彼に言われてしまった。さすがにこの大荷物ではバレバレだろうか。
私のことなど全てお見通しかのような秋山さんの態度を少し悔しく感じて、彼の視線を奪っている本を取り上げてみた。

「…返せ。」
「…嫌です。」
しばらく見つめ合う。
秋山さんがため息をついてベッドに横になってしまった。
狭いのは承知の上で、秋山さんの隣に寝転がってみる。と、視界がふいに暗くなった。
何のことはない、横になった私の上に秋山さんが覆い被さっただけだったのだが、一瞬の出来事だったので頭がついていかなかった。

「何度も言うようだけど…」
「はい。」
「無防備にも程がある。」
少し意地悪な口調。耳元で秋山さんが囁くから、背中がぞくりとした。
声が出ない。
「さて。」
私に覆い被さったままの秋山さんは、まっすぐ私を見て言った。
「俺は今からこのいたいけな子羊をどうするか。」
いつもより鋭い瞳に射抜かれる。
「あ…あの、」
「帰るなら今のうちだぞ。じゃないと、」
「私、あの、こういうの…」
秋山さんの唇で唇が塞がれた。心臓が跳ねる。酸素が足りない。舌が入り込んできて、頭の中までかき回されている気分になる。
「…覚悟は?」
唇を解放して、秋山さんが私に問いかける。
「……出来てません。」
素直に答えると、秋山さんが呆れたように笑った。
「…なんで笑うんですか?」
「この状況でも君がバカ正直すぎるから可笑しくて。」
鋭い眼差しは、いつもの少し優しいものに戻っていて。
「……っ、からかったんですか!?ヒドいです!!」
力が入らない腕で、秋山さんの胸をポカポカ叩くと、ぎゅっと抱きしめられた。
「何か子羊が神聖すぎて食べちゃいけないような気がしてきたんだ。」
「…どういうことですか。」
「本気だったってこと。」
抱きしめられながら、いつもより秋山さんの鼓動が早いのを感じる。
…あぁ、私はまた秋山さんに無理をさせているのかもしれない。
「秋山さん…わたし、」
「無理しなくていいから。」
秋山さんはそういって私の頭を軽く撫でる。そう、いつもそうだ。秋山さんは私を一番に考えてくれているのに、私はいつだってそれに応える術をもっていない。もどかしさで胸がいっぱいになる。
「秋山さん、今日から一緒に寝ませんか。」
何とかしたい。精一杯の提案。
いつもは彼はベッドを私に明け渡して、ソファに行ってしまうから。少しずつ、気持ちを馴らしていかなくては。
「…俺が大丈夫じゃなくなるかも知れないんだがな。」
「その時は、私が頑張ります。」
少しずつでいいから。
秋山さんが苦笑いをしたから、その胸に顔をうずめた。
次は、きっと大丈夫だと自分に言い聞かせる。
「じゃあ、シャワー浴びたら寝るか。…一緒に。」
「あっ、はい。」
秋山さんに言われるがまま、シャワー支度をして、
「…シャワーも一緒に浴びますか?」
そう訊くと、秋山さんはバカなこと言うな、と言い捨てた。何だかおかしくて、自然と笑顔になる。
「笑ってないで、さっさと入ってこいよ。」
「はぁい。」

パタパタとバスルームに向かう時、背中の方からテレビの音に混ざって盛大なため息が聞こえたような気がする。

いつまでも無邪気な子羊のままでいられないから、貴方のために…少しずつでも、沢山頑張ろう。
心にそう誓った。

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100511
こんなはずじゃ…orz




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