やわかな
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長い夢を見ていたみたい。
いつの間にか雪や氷柱が溶けて、知らない間に桜が芽吹いて、気付けば向日葵が咲き誇って、そして枯れ葉の上を歩いて…
そんな日々を過ごして来たような気がする。もう、始まりの空気だって鮮明には思い出せない。あの人の残り香も、今はもうない。
電話が鳴る、条件反射的に手を伸ばす。
「もしもし。」
「あ、ナオ?」
「フクナガさん。」
あの人が消えてから、こまめに連絡をくれるその声。今まで"秋山さん"で埋め尽くされていた着信履歴は、段々と"フクナガさん"に塗り変えられていく。
最初はとにかく悲しかった。でも、秋山さんが選んだ道を止める術には私にはなかった。
無力だったのかも知れない。泣きながら行かないで、と言えたら良かったのかも知れない。言えるわけがなかったし、言ったから彼が聞いてくれたかどうかも今となっては分からない。とにかく、別れる道を避けられなかった事実だけがある。
「もう大丈夫?」
「はい、なんとか…」
「まったく、アンタを置いてくなんてあいつ…」
フクナガさんの言葉がなんだか少し心強かった。
「あの、」
「ん?」
「…ありがとうございます。」
「…いいのよ、別に。」
嵐のような日々を過ごした。秋山さんは嵐のようにやってきて、嵐のように去っていった。けれど。
「ナオ、今から暇なら会わない?」
「良いですよ。」
「じゃあ、1時間後に角にある喫茶店で。」
「いつものところですね、分かりました。」

嵐が収まった今、私は以前のようにひとりではなかった。それにほっとする。
今はそれでいい。心に言い聞かせて、カーディガンを羽織り玄関を出る。

春のやわらかい風が頬を撫でて、秋山さんと過ごした日々を思い出す。
記憶がどんなに薄れても、時がどんなに経っても、この形のない想いは…きっと一生忘れないだろう。
少し立ち止まって、そして再び歩き出した。

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100501
原作ナガ様書きたかった…。




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