Tell me
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狭い布団で君を抱き締めたまま、腕に君の重みを感じたまま夢を見る。内容はどうだってよくて、ただこの温もりを日々感じられることが幸せだと思う。
言葉をどんなに尽くしても、君への想いは語り尽くせないから、朝を迎える度に伝わらない想いを恨んだり伝えきれない言葉のもどかしさを感じたりする。

秋山さん、と君が俺の名前を呼ぶ。
苦しいですよ。
きつく抱きしめなきゃ不安で仕方ないから、君がそう告げても腕を弛めずにいると、君は何だか子供みたいですね、と笑った。
そうなのかも知れない。大切なものを離したくないから、頑なに握りしめている子供。今の俺は、多分まさにそれなんだろう。
ダメか?と問うと、ダメじゃないです、と腕の中で身じろぎする。



秋山さんは時々とても悲しそうに私を抱きしめる。時々呼吸が苦しくなるくらいに。
悪い夢でも見たのか、それとも彼が今悪い夢の中に生きているのかよく分からないけれど、訊いてもどうせ答えてくれないから私は当たり障りなく接することしか出来ない。そう考えると、胸をぎゅっと捕まれたように苦しくなる。
子供…そう、子供みたい。お母さんにしがみついて、泣いている子供。
彼にそう告げると、また少し悲しそうに笑ってダメか?と返してくる。ダメじゃないです、と答えて、苦しさを紛らわすように体を動かす。
どうしたら、どうしたら彼の心に少しでも近付けるのだろう。頭の片隅に浮かんだ疑問は解けないような気がして、途方にくれる。



心の片隅に、いつもザラついた不安を飼い慣らしている。長い間忘れていたこいつを思い出させたのは紛れもなく彼女で、原因は分かっているのにどうしようもなかった。
ただ何かの儀式みたいに彼女を抱きしめて、束の間の安心を手に入れて、消せない不安を膨らます日々。これで良いんだろうか。
彼女に回した腕に、彼女が触れる。何か答えを求めているように。
俺はこのままでも良いんだろうか?
ぽつり、と呟くと彼女の手が俺の手を握りしめた。答えが欲しいのは俺の方。



重なり合う体温さえ、時々不安感を煽る。明日起きたら彼がいないような、そんな気がする。私を抱きしめる度に、少しずつ心をすり減らしてるみたい。
悲しくなって、体に回された彼の腕を手でなぞる。どうしたらあなたの不安を拭えますか?教えてください。そう口に出せたら楽なのに。
ふと彼が耳元で呟く。
腕をなぞっていた手で彼の手を握る。


そのままで…、そのままの秋山さんが好きです。


彼女の言葉が体に入り込んでくる。
欲しかった答えを貰えたんだろうか。不安感がまだ消え去らないから、やっぱりまた強く君を抱きしめた。
思ったことをお互いに何もかも伝えきれたら、きっとこんなに苦しまなくて済んだんだろう。

君を抱きながら、いつまでも君が俺の問いに答え続けてくれる事を、胸の中で小さく願った。

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100430




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