平和こと
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秋山さんと久々のお出かけだと張り切っていた分、気分は最悪だ。デートだなんて、そんな大層なものでもない。
それでも私にとってはとても大事な時間なのだ。

…それなのに。

「…どうしたんだ、その格好。」
待ち合わせ場所に俯いたまま立ち竦む私の耳に聞き慣れた声が届く。
泣きたい気持ちを抑えて、
「転んじゃいました…」
答える。多分いつもみたいな笑顔は出ていない。
例えば、自分ひとりの時に転ぼうが落とし穴に落ちようが、服が汚れたって、こんな気分にはならない。秋山さんと一緒の時だから。
「随分と派手に転んだな…」
綺麗な淡いピンク色のスカートが泥だらけになっているのを見て彼が言う。
「怪我は?」
「怪我は、ない、です。」
「…ならいい。」
少し安堵した表情。心配してくれてるのは嬉しい。
ごう、と風が強く吹く。セットした髪も乱れてしまって、ああ何だか良いとこナシになってしまった。
ふっと秋山さんが笑う。
「…それじゃ出歩けないな。」
手で乱れた髪を少し直してくれた。
「はい…」
少しだけみじめな気持ちになる。
「まずはその最先端のファッションをどうにかしないとな。」
笑いながら言うから、茶化されてる気になってちょっとむっとする。…子供みたい、私。
「一回、家帰ろう。」
秋山さんがそっと手を繋いでくる。
大きな彼の手、それだけで転んでも良かったかなと思えてしまう。…出来るならせっかくのオシャレを普通に見せたかったけれど。
繋がれた手はひんやりとしていて、私の体温がいつもより高いのがバレてしまいそうでドキドキする。誤魔化すために言葉を紡ぐ。
「秋山さん、着替えたらどこに行きましょうか。」
「君が行きたいところでいい。」
「秋山さんは、今日何時まで大丈夫ですか?」
「…別に時間の制約はないな。」
反応はあまり芳しくない。
「秋山さん、」
「ん?」
「好きですよ。」
「…………ああ。」
「……好き、って言ってくれないんですね……。」
「…じゃあ、“好きだ”。」
「…!気持ちがこもってないじゃないですか!」
秋山さんがまた笑う。
「言葉なんて大した意味を持たないだろ、何より俺は嘘つきだ。」
秋山さんが私の手を握る力が少し強くなった。ああ、確かに好きなんて言葉がなくても伝わる。けれど、たまには言葉も欲しいなあなんて贅沢を言ってみたかったりもして。
「直、」
秋山さんが立ち止まった。
「はい。」
まっすぐ私を見て、
「俺も好きだ、君のこと。」
真顔で言う。不意打ちすぎて、笑ってしまった。
「…言えって言ったくせに。」
「ごめんなさい、でもおかしくて。」
それに、嬉しくて照れくさくて、みるみる顔が熱くなる。
「…言ったら言ったで照れるくせに。」
秋山さんがぼそりと呟いた。確かにその通りだけど。
「嬉しいので、もっと沢山言ってください。」
「…やだね。」
「…秋山さんのケチ。」
2人して顔を見合わせて笑いあう。こんな時間が愛おしい。
家に着いて、繋いでいた手が解かれる。
「ほら、さっさと着替えてこい。」
玄関前で秋山さんにそう促されて、部屋に入る。
着ていた服を洗濯かごに放り込んで新しい服をクローゼットから引っ張り出す。
…何だか平和だなあと考えて、思わず笑みがこぼれた。

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