月に雲花に
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風が剥き出しの肩を撫でる。
寒い夜、直はシーツを巻き付けたまま動けずに布団に座り込んだ。開けっ放しのカーテンのせいで、窓からはぼんやりとした月が覗いている。
何だか月に笑われているみたい、と直は思い、ふふ、と笑った。

「何がおかしい?」
「いえ、月が…何だか月に見られてるような気がして。」
秋山は窓の外を眺めて、また直に視線を戻した。
愛しいと感じていた笑顔は少し痩せていて、それでもその瞳はいつまでも子供のようで秋山を少し苛立たせた。
「逃げないのか。」
冷たい声で訊く。
直は秋山を見つめて、いつものように微笑む。
「秋山さんが、いて欲しいって。そう言ったからいるんですよ、私は…」

殆ど軟禁のような形で、秋山が直を閉じ込めてから数ヶ月が経った。その間、秋山が直になにをしても直は秋山のすることを嫌がらなかったし、逃げようと試みたりしなかった。
全く、いかれている。秋山はそう思った。自らが望んで直に押し付けた方法だというのに。
いっそ彼女が死んだ魚のような目になり、彼を呪う言葉でも吐いた方が気休めになったのかもしれない。人は儚く脆く壊れやすい事を、秋山は知っていたから。
実際は直は毎晩秋山の安らぐ言葉を紡ぎ、毎晩彼をあやすかのように微笑みかけた。
日に日に少しずつ痩せていく笑顔を見て、それでも秋山は枯れかけた花を抱くように直を抱き締め続けて、そんな生活で段々と日付の感覚もなくなってくる。実際、最早この部屋にいること以外はどうでも良かった。
直は秋山の顔を見た後、また遠い目で窓の外を見やる。
「どうなるんでしょうか。」
自分に問いかけるように呟いた。深い井戸に閉じこめられたまま、手が届かない月を見ている錯覚に陥っているように。それでも直は天使のような笑顔を絶やさない。
秋山は深くため息をついて呟く。
「……ひどくつまらない夜だな。」
そのままゆるゆるとシーツの海に直を沈めると、ぎし、と軋む音がして直は目を細める。
「…いえ、ひどく寂しい夜ですよ。」
薄く開いた目から秋山を見つめて、その首に腕を回しながら耳元で囁く。秋山は気付かないふりをしていつものように直を抱き締めた。
心の中では無意味だと分かっているのにどうしようもない苛立ちは、ぶつけ合ったところで消える事などないのに。そうするしか方法が見つからなかった。

夜がすっかり更ける頃、月はいつの間にか雲に隠れて、部屋は暗闇と静寂に包まれていた。

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100428
ヤンデレ風味。




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