未満
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「消えないでくださいね」
彼女はそう言う。
消えるわけないだろうと俺は答えるけれど、本当に消えない保証なんてどこにもない。
「だって、秋山さんはフラフラ消えちゃいそうですから。」
彼女は妙なところが鋭くて、俺は笑うしかなかった。
「秋山さん、幽霊みたい。ふっと現れて、ふっといなくなるから…」
そう笑う彼女は、どこか寂しげで。
「幽霊、か…」
言えてるかも知れない。ふらりと現れて、ふらりと消える。現れる場所は、未練がある人のところ。
例えるならもう少しいいものの方が嬉しいかな、例えば正義の味方とか。と思うけれど、口に出すのはバカバカしいから黙っていた。
「幽霊みたいに消えちゃったら、私きっと泣きますよ。」
そう語る彼女の瞳は至って真剣そのもの。
俺は彼女の頭を撫でた。

「もし俺が本当に幽霊だったら、見えないだろ。お前には。」
「…そうですね。足もあるし。」
俺の膝に手を乗せる。くすぐったい。
「もう消えないって言ってるだろ。だから安心しろ。」
いずれ嘘になりかねない言葉を、心からの気持ちを込めて。出来るなら少しでも近くに。
「嘘はつかないでくださいね。」
そう言う彼女はまたも無邪気に笑う。
「仮に幽霊になっても、ずっとお前の側にいるよ。」
と笑う。今の俺はまるで幽霊のなり損ないだ。

「幽霊って…死ななきゃなれませんよね?そんなの、絶対だめです!」
必死な彼女を見て、改めて思った。幽霊未満のまま、彼女を見守り続けられますようにーー

心の隅のざらざらとした不安を消すために祈り、そして彼女に笑いかけよう。これからも、出来るだけ。

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100427




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