伸ば
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幼い頃、よく父に手を引かれて出掛けた。どこに行ったのかとか、細かいことは覚えていないのだけれど、私を離すまいと強く優しく繋いでくれる父の手が大好きだった。
私は成長して、父は昔よりも小さくなって行くけれど、その記憶だけはいつまでも鮮明で…。

「…お、直?」
秋山さんが私の顔を覗き込んでいるのに気付いて、はっとする。ぼーっとしていたとは言え、こんなに近づくまで気付かないなんて秋山さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「どうした?いつも以上にぼーっとして。」
「ヒドいです。」
秋山さんが茶化すように言うから、子供のようにむくれてみる。
「…少し、昔の事を思い出していました。」
「へぇ、どんな?」
「父が、よく私の手を引いてあちこち連れていってくれたんです。今はもう出来なくなっちゃいましたけど…」

「…そう。」
「私はすぐあちこち動き回るから、多分父は大変だったと思います。」
「…だろうね。」
それきり2人とも黙り込んでしまった。
家族の話をすると秋山さんは決まって少し切なそうな顔をした。今もそうだ。
私も、もう戻れないであろう日々に想いを馳せて切なくなる。
まだ考えたくもないけれど、もし…父がいなくなったら。これから誰が私の手を引いて導いてくれると言うのだろう?そんなことを度々考えては、頭から不安を追い出している。
このまま1人になってしまいそうな気がして。
ふと秋山さんが手を差し出した。
「?」

「不安、なんだろ?これからは、俺がお前の手を握っててやるよ。」
いつものように、不敵な…でも優しい声で真っ直ぐに私に言う。
秋山さんは、私の不安など全てお見通しなのかも知れない。
差し出された手に自分の手を重ねると、優しく握り返してくれた。まるであの頃の父のように。

「離すなよ、守ってやるから。」
「――はいっ。」


伸ばされた手。
私はもう、1人じゃない。

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100421
どう頑張ってもパパ山にしかならない病
お題はMoonlight様より




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