ココのつぼ
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カンザキナオを置いて旅に出た。
別れも行き先も告げなかった。告げる必要もなかったし、言ってしまったら離れ難くなるような気もした。
どこに行くかも特に考えずにカバンひとつで飛び出したから、適当な電車に飛び乗ってどこだか分からないような海辺に辿り着く。正直、ここがどこだって良かった。
頼りない風のようにふらふらとさまよい歩きながら、少しでも今までの暮らしと…過去とを捨て去ろうと頭を働かせて、少し立ち止まって…どんなに頑張っても捨てきれない思い出と、忘れきれない人を思ってつい笑ってしまう。

「人はひとりでは生きられないから、助け合わなきゃならないんです」
そう言っていた彼女の記憶も、自分が思っていたよりもずっと大切だったらしい。置いてきたはずの彼女は、しっかり自分に染み付いているようだ。
…今頃、俺を思って泣いてくれていたりするんだろうか。
それとも忘れてしまっているんだろうか。出来るなら、俺みたいな人間の事など綺麗に忘れてしまってほしいけれど。

空を見上げると、雲一つない空がどこまでも繋がっている。彼女も同じ空を見ているだろうか?とふと考える。
自分勝手な考えに彼女を巻き込まない事が彼女を守ることだと、くだらない意地を積み重ねている自分を滑稽だと思った。
迷っても何をしても、もう自分からは会わないと心に決めたはずなのに。どうしてこんなに思い出すのは君の事ばかりなんだろう。
もはや癖になってしまっているようなため息をひとつついて、また前に踏み出した。

道は違っても、いつかまた何処かで会えるのかも知れない。それまでには、少しでも君に相応しい人間になれたら、と心から思い歩き続ける。
目指す場所は、今はまだ分からないけれど…。

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100513




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