シリタイモチ
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「わたし、秋山さんになりたいです。」
いつも突拍子もないことを言う直の事だから、秋山は敢えて詳しく聞くことはせずに適当に相槌を打った。
「私が秋山さんだったら、今よりもっと色んな事が出来るのに…」
「俺 みたいに なりたいんじゃなくて、俺 自身 になりたいのか?」
「はい!」
「…変なこと言うね。」
何かに影響を受けたのか分からないけれど、とても似ても似付かない人間になりたがるなんて。
「で、俺になってどうするの。」
「秋山さんになったら、秋山さんの事が全部分かるかなって思ったんです。それに秋山さんの目でものを見たら、多分全く違う世界が見えそうで。」
嬉しそうに直が秋山にそう話すと、秋山はどう反応していいものやら…と頭を抱えた。
「…俺になっても、きっと何も良い事なんかないよ。それだったら俺は君みたいな人になってみたいね、一度。」
「小説とかドラマだと、よくありますよね。中身が入れ替わるっていうの。私と秋山さん、入れ替わったら楽しいかも知れませんね。」
ふふっ、と直が笑う。
「…俺は君になったら、俺に近付かないように遠くに行くけどな。」
「えっ!?」
「少なくとも俺が君みたいな女子大生だったら、俺みたいな危険人物に近付かない。」
「秋山さんは危険じゃないですよ!すごく優しいですし、頭も良いです。それからすごく大人ですし…」
秋山の良いところを並べ立ててまくし立てる直に秋山は苦笑いした。
「君が俺になって、俺の頭で物事を考えたら、きっと俺を見損なうよ。」
直は意味が分からず首を傾げる。
「俺はきっと君の思っているような素晴らしい人間じゃないからね。君になって君の頭で考えられたら、俺にも少しは自分が良く見えるのかな?」
「…何だか良く分からなくなってきました。私が秋山さんで、秋山さんが私だったら、お互いの事をもっと分かり合えそうだと思ったのに逆に分からなくなりそうな気が。」
「だったら別に今のままでいいだろ?」
「あ、でも秋山さんになってやってみたい事はあるんですよ。」
へぇ、と秋山は興味深そうに言う。
「何?」
「…抱き締めてみたいです、私を。」
「はぁ?」
私を抱き締めているとき、秋山さんはどんな気持ちなのかなあって。いつも思うんです、直がそう答えて秋山を見つめた。
「――そんなの、」
わざわざ体交換するまでもないだろ。
喉まで出かかった言葉を飲み込んで、秋山は直を抱き締めた。
直は少しびっくりしたけれど、秋山の胸に体を預けて耳を押し付ける。少しずつ、鼓動が早くなる。

「…分かるだろ、このままでも。」
ぶっきらぼうに言い捨てた秋山を上目遣いに見上げて、直ははい、と笑顔で頷いた。

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100514
欲しがる人いるのか分かんないけど、欲しい方はご自由にどぞー…。




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