tangerine
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バカ正直だとか、無防備だとか、すぐ騙されるだとか、周囲の私に対する評価は大体そんなような感じで、秋山さんもその点に関しては全く同じように私を扱っている。
ただひとつ違うのは、他の人が私を見捨てても秋山さんだけは私を守ってくれると言うことだ。
いくつも年が離れた男の人と、こんな風に過ごす日々がくるなんてこの年まで想像もしていなかったけれど、彼の声や態度は常に優しくて、心地よかった。
きっかけは、とんでもないゲームだった。でも、そのお陰で彼と出会えて、辛い事も沢山あったけれど今は以前のように普通に暮らせている。
…結果的には、以前以上の暮らしかも知れない。家族以外の、かけがえのない存在を手に入れた。
彼の事を考えると心が温かくなって、彼と一緒にいるとドキドキする。それは生まれて初めて味わった感覚だと思う。
おそらく、恋と呼べる部類のもの。

事あるごとに何かしら理由をつけて電話をしたり家に行ったり呼んだりを繰り返しては、秋山さんに呆れられているのだけれど、また今日もいつものように秋山さんのお家にお邪魔する。

「……また来たのか。」
「はいっ。今日のご飯はパスタです。どうですか?」
「いいんじゃないか?」
「ちょっと時間かかりますけど、待ってて下さいね。」

お礼と言うには度が過ぎると、最初のうちこそ秋山さんも言っていたけれど、今となっては私のこの自己満足に過ぎない行動を容認してくれているようだ。
トマトとバジルを刻み終わってお湯が沸くのを待っていると、秋山さんが近寄ってきた。
「…お前、毎日毎日人の家で飯作って飽きない?」
「飽きませんよ。料理はスキですし、1人より2人で食べる方が楽しいですし…」
ふーん、と秋山さんはあまり興味がなさそうだ。
彼がすぐ近くにいると思うと、鼓動が段々と早くなるのを感じる。気付かれませんように…。
「…奥さん気取り、ってわけじゃないんだ?」
秋山さんが呟く。
どくん、心臓が跳ね上がる。
「えっ、」
「もしそういうつもりなら、俺はやめた方がいい。君の為にならないし。」
どくん、どくん、どくん、あ、どうしよう。頭の中が真っ白になっていくのが分かる。
「…迷惑でしょうか。」
「迷惑…ではないけど。ただ、もしこの行動が君の俺に対する恋愛感情とかそういうものからきてるなら早めにやめた方がいい。」
そういう秋山さんの目に、射抜かれる。
「…好きだから、側にいたい。そういうのはダメでしょうか…。」
さらりと言葉が零れる。気持ちに嘘などつける訳がなかった。
秋山さんは少し困ったような顔で私をじっと見つめたあと、ため息をついて、「バカ正直。」と言った。前にもこんなやりとりをしたような気がする。

「男の家に上がり込んでるクセに無防備すぎるし、その上この状況で好きとか言うし。何をされても文句を言えないってこと、…分かってる?」
お湯が沸騰しきって鍋の蓋がカタカタ鳴っている中、秋山さんの声だけが頭の中に響く。
じっと秋山さんを見つめ返して、無意識に口がはい、と動いた。愛しい人を目の前にして想いが溢れてしまっている以上、分かってないふりはもう出来ない。
「じゃあ――…」

秋山さんの顔が近づく、無意識に目を閉じる。
唇に、軽く唇が触れる感触がしてすぐに離れた。
「…こういうのもアリ?」
少しイタズラっぽく秋山さんが笑う。
「お前、顔真っ赤。」
仕方のないことなのに。
「秋山さん、いじわる…。俺はやめろって言いながらキスなんて。」
出来る限りの反抗も、気持ちの高ぶりにはかなわない。
「嫌いになった?」
「…なれるわけ、ないです。」
初めてのキスを、大好きなあなたに奪われたのに。
「…そう。だったら、その無防備さを少し直す努力をしろ。俺が男だって忘れるな。」
少しだけ照れくさそうに言い捨てる秋山さんに、気持ちが一気に和むのを感じる。ああ、こういうところも…
「秋山さん、好きですよ。」
「…バカ。」
思わず笑顔になってしまう。
「ごはん、すぐ作ります。」

パスタを鍋に放り込んでタイマーをセットした。

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100421
よく初キスの味は柑橘系に例えられますけど、秋山さんはきっと煙草の味




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