感情
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
拒絶する君を見たい、ただ最初はそう思った。何でも素直に受け入れるなら、どこまでなら耐えられるんだろう。どこまで虐げたら、彼女はその綺麗な顔を歪めるんだろうか。
少しずつ、後ろ暗い感情が熟れて…腐っていくような気がする。
誰も見たことのない彼女の拒絶や絶望を見てみたいと思った。それはどんな表情なんだろうか。

電気が消えたままの薄暗い部屋の中。月明かりだけが頼りで、灰皿の中では煙草の火がくすぶっている。
無防備な彼女の両手足を縛り上げて、布団に転がしてある。
それだけでこの部屋の空気は異常だ。

「ねぇ。」
彼女は喋らない。じっと目を瞑って、まるで夢でありますようにと願っているみたいだ。
「何で、って思ってる?」
彼女のすぐ横に座って話しかける。
別に答えが聞きたい訳じゃなかった。何かに苛立っている自分自身を抑えられなかった。

「俺がどんな人間か、君はちゃんと分かってない。前科者だし、それに…

いつだって君を好きなように出来る。」
目を頑なに瞑ったままの彼女の耳元で囁く。脅しではなくて、本気で。
ぴくり、と彼女の身体が震えた。
ゆっくりと目を開けて、その瞳が俺の顔に焦点を合わせる。
「秋山さんは…優しいんです。だから、」
「キミの嫌がることはしないとでも?」
彼女はじっと俺を見つめたまま唇を噛んだ。
「例えば、今すぐ君を犯すも殺すも俺の自由だ…と言ったら?」
彼女の気丈な表情は崩れない。少し前ならばちょっとしたことで泣いていたのに。
大事にして、守りたいと思った。その笑顔を、同時に歪ませてみたいという感情もいつからか抑えきれなくなって、思いっきり君にぶつけてみたくなった。
なのに、君は俺が望んだものをくれない。子供の我が儘みたいな理屈だ、と我ながら思うけれど、他にどんな方法をとれば良いのだろう。
見つめ合ったまま、沈黙だけが場の空気を支配する。
「こんなふうにして、」
彼女の首を両手で覆う。
「君を絞め殺したりしたら」
指先に少しだけ力を入れて
「君は俺を憎む?」
彼女の華奢な身体が初めて強張った。
「答えて。」
静かに吐き捨てる。

「それで…」
彼女が噛みしめていた唇を開いて、
「秋山さんの気持ちは収まるんですか。」
真っ直ぐ俺を見据えたまま静かに答える。
その瞳には涙が浮かんでいるけれど、俺の欲しい表情じゃない。

「…どうかな。」
もう少しだけ力を込めてみる。
白くて細い身体、力を入れたら折れてしまいそう。

「良いですよ…」
ひゅう、と喉がなる。
「それで秋山さんが救われるなら。私は…」
にこり、と笑う。その目からは涙が零れ落ちた。
「大好きな秋山さんになら、いいです。」

この期に及んでどうしてそんな表情が出来ると言うのだろう。信頼していたはずの男が君を絞め殺そうとしているのに?
手に入っていた力が抜けていく。彼女の首から手を外す。
はぁっ、
息を大きく吸い込んだ彼女の胸が上下に数回大きく動いた。
彼女は目を瞑ったまま静かに呼吸を整えて、俺はその隣で俯くしかなかった。
どのくらいの時間が経ったのか、
「あきやま、さん…」
沈黙を破ったのは彼女だった。
芋虫のような格好で横たわったままの彼女を、半ば無意識に抱き起こして抱き締める事しか出来なかった。
「ごめん。」
謝ったところで…

「秋山さんになら」
優しい声。
「何をされても、良かったんです。」
そう、彼女は呟く。
「大好きですよ秋山さん。」
俺の負けだ、と悟った。
拒絶や絶望など、彼女にとっては大した意味はなかった。
膨れ上がった苛立ちや矛盾だらけの感情を彼女にぶつけたところで、彼女の身体に俺自身の弱さを刻んで、俺自身が絶望感を味わっただけだった。

「苦しかったら、お話くらい聞けますから。だからずっと、秋山さんの側にいます。」
腕の中でそう言う彼女の微笑みは、俺の中の闇の感情を全て吸収していく。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

100419
痛々しい秋山さんを書きたかったのに色々ごめんなさい。
本当にごめんなさいもうしません。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -